ルグリアの古城
城は街の中心にあっておどろくほどさびれていた。
すすけた色のからすが数羽、
三人と一羽は、身軽なサンリアとじーちゃんを先頭に、レオン、セルシアと続いて建物に向かった。
「街の中央にある広場なのに誰もいないなんて……普通じゃないわね」
「えぇ、ここ、普通の人には見えないようになってるんですよ。
サルレイさんが言ってました、森と同じように、他の部分と
僕もサルレイさんに案内されるまでは、こんなものが街の中にあったなんてぜんぜん知りませんでした」
『何かのきっかけをあたえられると、人はゆらぐんじゃ。
住んでいる世界の多層性がわかるようになる…かもしれんし、知らぬまに全くちがう位相に移ってしまってそれきりということもあるかもしれん。
お主らが思っているほど、〈日常〉は当然ではないということじゃな』
「そう聞いていたので、逆に地続きなものは同じ世界だと思っていたんですけどね……森の向こうでは世界ごとちがっていたなんてね。……で、この城のある世界が、僕達が救わなきゃいけない次元のものなんですね?」
『そういうことじゃ』
「じゃあさぁ、もしかしたら俺らの知らないとこでもほろびそうな次元もあるかもしれないんじゃねぇの?」
『もちろんあるじゃろうな。しかし存在をしらぬものを助けることはできん。
ワシらは
「まぁ、当然でしょうね。僕達は万能ではない、多少力のある剣を手に入れただけの普通の人間だ」
セルシアが皮肉のこもった目でじーちゃんを見やる。なぜそういう目をするのか、レオンには理解できなかった。
しかしじーちゃんは平気な顔で返した。
『案ずるな。相手も同じ人間じゃ。単に向こうのホウがおそらくこちらよりも様々な知識や技術を有しておるというだけでの』
レオンは何も言わなかったが、「植民地支配」という中学校で習った歴史を思い返していた。
一方的で圧倒的であったあれも、同じ普通の人間同士で起こったできごとなのだ。
今起ころうとしていることもそうなのではないだろうか。
そうか、それでセルシアはあんな目をしたのか、と思いあたる。
(本当に勝てるのか……?)
物おもいにふけっていたレオンの前で、サンリアが宮殿の重いとびらを風の力でこじあけて、小さな
「……すごい! 暗いけどあちこち金色がかがやいてる……すごく豪華ね」
サンリアの言うとおり、宮殿の中は古風で
窓が少ないためにかなり暗いが、燭台すべてに火がともされれば、それはそれはうつくしい大広間になるのだろう。
「暗いのがもったいないですね」
「レオン、何とかならないの?」
「あ、うんちょっと試してみるか。〈点火〉」
レオンはつぶやいてみたが、何も起こらない。
「火、じゃだめなんじゃないですか?」
「光の剣だものねー」
「あー、なるほど。……しかたねぇな、ちょっと大規模だけどじーちゃんと同じのでいくか。〈
レオンが
ぼわっと三人の周囲が明るくなる。
「おぉー! すごいですね」
「でも
「俺の考えてたのともちがう……」
「よね。ろうそくが全部つく感じがいいわ」
「じゃ、それを指定してみてはどうですか? 剣とちゃんと
「うぃ。……えーと、んじゃぁ……〈調光燭台〉!」
レオンが叫ぶと、広間すべての燭台がキラキラとかがやきだした。
「……燭台全体が発光してません?」
「くく、あ、案外うまく、く、いかないものねぇ」
「サンリアちゃん、笑いこらえきれてませんよ?
っと、レオン君どうしました?」
「ごめん、へこんだ?」
「……いや」
レオンは急におそってきたものすごい
「……これ、負担きつかった」
「あちゃぁ。ヘタレなのね」
「まぁムリはしないで。〈調光〉の時の明るさで、歩くには十分でしょう」
『……お遊びの時間はもうないぞ』
じーちゃんが三人の頭上を
『こっちじゃ』
じーちゃんは左右の大小さまざまなとびらを全て無視し、まっすぐ奥の大きな
レオンはまっしぐらに、サンリアはきょろきょろしながら、セルシアはもっと調べてみたい気持ちにうしろ髪を引かれながらそちらに向かう。
と、カタカタと床が、燭台が、建物ぜんたいが小きざみに
皆あわてて階段に向かって一列に走りだす。
レオンがその一段目に足をかけた。
その瞬間、ものすごい
「っぐわぁああぁあ!!」
「レオン!?」
彼は地下に放りだされた!
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