二人を誘う風

二人を誘う風…壱…

お隣の異世界



 サンリア -with Wingrares-



 十三歳、女。

 自身の世界では、村長こうとして両親とかくされて育つ。口が悪い。

 風の剣を取った理由は「大切な物だから」

 最年少だが、せいしんめんは大人だと思っている。


──────

「着いたっぽいわよ」

「……早!」

 旅立って三日目の朝。森の中を最短ルートで進んで来たのだとしても、別の世界から来たにしてはちょっと早すぎである。

「でも……遠いな」

 目の前にあるのはただ限りなく広がる草原。はるか遠くにわずかに黒い城のような街のような影が見える、それだけだった。そうされた道すら近くには見当たらない。しょうしゅうらくがあるわけでもなく、それが近代的に開発された街や畑しか知らないレオンには、ひどく未開で、そしてぜいたくに見えた。

「うーん、そうねー! よし、きょうそうしましょ」

「え!?」

「当然でしょ、いっこくあらそうのよ。早く行かないとー」

「楽しそうだな、単に走りたいだけじゃないのか?」

「まぁ、まぁ」

 サンリアはニコニコしながらはぐらかした。

(まぁ、十三歳の女の子なんかに俺が負けるわけないけどな)

 レオンは心の中でほほんだ。


「途中で倒れても知らないぞ?」

「そっちこそ! よぉし、じゃあ……よーい」

『ホウ』

(だ、だ……気が抜けた……。)

 レオンはつんのめった。隣のサンリアもひたいに手を当てて「駄目だこりゃ」のポーズをとっている。

「じーちゃん、いきなり気の抜けた声出さないでよ……」

まないのう。じゃが、じっけんは成功したぞ、と言いたくてのう』

「実験?」

 サンリアは目をまるくして首をげんかいまでかたむけている。そのとなりで、

「あ、あれか。成功したのか!」

 レオンはなおよろこんだ。が、ガン!! とサンリアにグーでなぐられてしまった。

「ちょっと、どういう意味!?」

 レオンは肩を押さえいたみにえながら話した。

一昨日おとといの夜ごろから、じーちゃんと話してたんだ。どうやったらじーちゃんが昼でも話せるようになるのかって。

 んで、思いついたのが、じーちゃんの周囲だけ夜にしようってあんだ。じーちゃんの周りを暗くすることで〈夜〉みたいなじょうたいになるんじゃないかってね」

『そして、成功じゃった』

「……じゃあ、じーちゃん、これからはいつでもおしゃべりしたい時にできるのね!?」

『そういうことじゃ。グラードシャインの力は、おさえられていてもすごいのう……』


 レオンはさやおさまっている剣をる。

 剣は、レオンが〈夜〉のイメージを明確にして、条件なんかもしっかり考えてからいのると、おどろくほど呆気あっけなくその術を遂行すいこうしてみせた。ほんやくのうと同じく、一度発動してしまえば、柄を握るどころか意識する必要すらない。しかし、確実に彼の体力の一部を今もい続けているのだろう。

 少しよくるとすぐにレオンの体力をうばっていく、美しくあやうい光の剣。

 一昨日のくまとの遭遇そうぐうで、レオンはすでに一度危険にさらされている。

 遠くの光景を集めることと、対象の光を奪うこと。それらを同時にやろうとして、彼はしっしんしかけたのだった。

 これで力は抑えられているという。本来の力とやらを引き出すとなれば、たんも増えるに違いない。それを彼がじゅうぜんに使える日は来るのだろうか。

 それとも、本来使うべき人間が他にいるのではないだろうか。


(どうして、俺なんだ……)

 それは、彼が〈選ばれし者〉だからだった。だが、彼はそんなことはっていて、信じられずにいた。

(どうして……俺なんかが……)

 あのまま剣を抜かなければ、もっと相応ふさわしい誰かが抜いたかもしれない。

 サンリアとじーちゃんで、その誰かを探し当てていたかもしれない。

〈一緒に来てって言ってみれば?〉

 自分の発言を思い出して、いまさら恥ずかしくなる。

 レオンはあの時「何となく」、サンリアと一緒に行ったほうが役に立つ人間になれそうだと思った。けれど、そんなのはたかのぞみではなかっただろうか。

 旅は辛くて、危険で、知らないことが多すぎる。

 世界を救うなんてじゅうせきを背負うかくも無い。

 無事に帰れるしょうだって、全く無い。

 でも……

(……仕方ないんだよな)

 自分が決めた道。この剣を抜いたのは事故みたいなものだったが、サンリアと共に歩むと決めたのは、まぎれもなく自分なのだ。

 ……自分しかいなかったとしても。


「おし、競争だ!」



 草むらをき分け走るのは、レオンには初めての経験だった。そのせいか、れるまでは余計なもするし上手く進まないしで散々な結果だった。

 途中から打ち捨てられたような街道のあとを見つけなければ、ここをキャンプ地とする!とあきらめてしまっていたかもしれない。

 ようやくじょうもん近くに辿たどり着いたレオンは、その場にへたりこんだ。

「つ、着いた……」

「案外遅いのね」

「うるへー! ……お前セコいよ! 風の力で運んでもらうなんてさ!」

「でも四時間もおくれをとるほどじゃないと思うけど……」

「……お前一回自力で走ってこい」

「イヤ」

「んなあっさりと……」


 フウッと大きく息をいて、レオンは城門を見上げた。

 がいてきなど全くいないのだろう。門は開かれたままだ。


「服はえなきゃね。私達のじゃちょっとさむいみたい」

 そう言って彼女は、道のわきにあったぐるまからいくつかるいを取り出した。

「お、お前どこからそんなもの……」

「ん? この荷車から」

「っじゃなくて。いつどうやって手に入れた?」

「レオンがたらたら歩いてる間、ひまだったから。どころは聞いちゃやーよ」

「……ぬすみはダメだぞ」

「ご心配なく。正当なぶんよ」

 取り分って、おい。レオンはツッコみかけたが、やめた。

 ここはやはりサンリアに感謝かんしゃしておくべきである。

「ありがとうな、サンリア」

「照れるからやめてー」

(普通そこはどういたしまして、とかそう言うもんじゃないのか?)

 言いかけて、またやめた。レオンはいまだに彼女との距離感をはかりかねている。


「……き、着替えよねっ」

 サンリアの声が上ずっている。本当に照れているようだ。

 可愛いところもあるのにな、と彼は思った。そのしゅんかん、一昨日のばんの記憶がよぎり、揶揄からかわれたこととむねチラを思い出してしまった。

 いや、これは、よろしくない。レオンはあせった。今後、ことあるごとにサンリアの胸チラを思いかべてしまうかもしれない。

 記憶を兄の胸にえてみた。もったいない気もしたが、サンリアの思うつぼにハマってやるのは歳上としてしゃくだった。

(うーん……よし、平常心)

「じゃ、着替えたらまたここで落ち合おう」

「そうね」

 サンリアはあの回転ノコギリ……もといウィングレアスを振って、レオンの前からいなくなった。

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