少年少女は森を征く

 その日の晩には、レオンのうでや足はきずだらけになっていた。

 えい中にひとつひとつ薬をっていて、勿論その程度ていどの傷を痛がる歳ではもうないのだが、それでも何故半袖半ズボンで来てしまったのかと憂鬱ゆううつな気分になる。

「そういえばサンリアもスカートだけど、怪我けがしてないか?」

「んー、多分大丈夫だと思うけど……」

 サンリアは無造作むぞうさに火の方にあしばしてがばりとスカートをまくった。レオンはサッと顔をそむける。スパッツがあるとはいえ、目に毒である。サンリアはそんなレオンの慌てようを見て悪戯いたずらっぽくくちびるの片側をり上げた。

「うん、大丈夫よ。ほら見て?」

「見ねーよ!!」

「何でよう、心配してくれたんでしょ? 気にならないの?」

「やめろ! 女の子が野郎やろうに脚をほいほい見せるな!」

「えー? どうして?」

「はあ、これだから小学生は。

 あのなぁ、……あー、なんて言うか……大人の女性の体は男にとってすごく価値かちのあるもんなんだ。だからそんなに簡単かんたんはだを見せるな。お前も大人になるんだし、今から大事にする練習しろよ」

「私、元の世界ではもう成人なのよ」

「はいはい、だったら尚更なおさらだろ。」

 レオンがかたくなに顔を向けず、サンリアが動く気配けはいを見せると目を閉じてしまったので、サンリアは面白がって彼の正面に座り直した。

「分かった。もうしないわ、だから目を開けて?」

「おう」

 レオンが目を開けると、サンリアが至近しきん距離きょりで彼を覗き込んでいた。突然のことに目が泳いで彼女の胸元むなもととらえる。ワンピースの隙間すきまくらがりの中に、普段は気にならないささやかなふくらみが、彼女の両腕りょううでに寄せられ谷間たにまを強調されて、確かにそこにあった。

 レオンは最早もはやおどろきの余り目もらせず、思わず後ろにひっくり返った。逃げようにもそれ以上体が動かなかった。

「お前ー! わざとやってるな!?」

「うふふ、あはははは! レオンってばおかしい〜!」

 強張こわばる体を何とか引きずってサンリアから離れたレオンは、笑い転げる彼女を見て溜息をついた。

「俺を馬鹿にするのは別にいいけど、自分を大事にしろって言ってんの」

「うん……分かってる。レオンのそういうところ、好きよ」

「また揶揄からかってんの?」

「んー? やだなぁ、ホントだよ?」

 ニコニコするサンリアは、本当に可愛いからたちが悪い。レオンはわざと眉をひそめ、悪い奴だと心の中で何度も唱えた。


「もういいよ。それより、本当に怪我はないんだな?」

「無いわ。だって私、足は風でバリアしてるもの。ウィングレアスが体から離れない限り、私は無傷むきずよ」

「あぁー! なるほどな……頭良いなー。俺にもそれ出来ない?」

「えー、うーん…私がレオンの体のこと、全部知ってたらできるかもだけど。トイレとかする時にちょっと危ないかもしれないわね?」

 レオンは思い当たって股間こかんをキュッと閉じた。

「……いや、やっぱいいです」

「それが正解よね。次の世界で服を調達するのがいいかな」

「ちなみにバリアは全身なのか? 俺がお前のかたたたこうとしたらジャッ!ってならない?」

「まあ、全身に出来なくもないけど、それじゃあ危なすぎるもの。必要な時以外は足だけにしてるわ。手とか顔はセンサーだから出しておかないと逆に危ないのよね。服も大丈夫よ。あと、街中に入ったら解除するつもりよ。人混ひとごみで迷惑めいわくかけたくないし」

「なるほどね、覚えとくよ。バリアは咄嗟とっさに出せるのか? 何か飛んできたら防ぐとか」

「あー、今は無理かな……。発動や変化させる時はウィングレアス握って集中が必要ね。でもいいアイディアね、時間があったら特訓とっくんしてみるわ」


 ところで、サンリアはこの特訓を急いだ方が良かったのだが、そう言うのは結果論けっかろんだろう。

 事件じけんは二人が思うよりもすぐに起こるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る