一筋の光…参…

二人の朝

「やめろ、シオ……ん」

 目覚めたのはベッドではなく地面の上だった。

 少しふかふかしているのは、土がみ固められていないからか。

「ある意味めてあげるわ。あんな高さから落ちて気付かずに寝てるんだもの。神業かみわざよ」

 呆れた顔のサンリアが立っている。レオンはね起きた。

(何で俺は此処にいるんだ!?)

 一分間ずーっと考えていると、徐々じょじょに記憶が戻ってきた。

 彼の頭脳にしては上出来の早さである。


「思い出した? 旅に出たのよ」

 周囲を見回す。森。やっと全ての記憶が戻った。

 そして、

「落ちたァ!?」

「遅いっつーの!」

 そういえば後頭部がヒリヒリする。そっと触れてみると、特大のこぶが出来上がっていた。

「いってー!! ……っ!!」

「それでも起きないんだから…。

 真夜中で私イヤな夢見てたから、レオンが落ちた音ですごい吃驚びっくりして目が覚めちゃったわ」

 レオンの幸せそうな寝顔をサンリアがかたわらで作業しながらながめ続けていたことを、じーちゃんは指摘してきしたかったが、体が夜行性のせいで日の出ている間は魔力が弱まり、ホッホッと笑うような声しか出なかった。

「……いてぇー」

「痛いのは分かったから。それより」

 サンリアは言葉を切ると、小枝とふいごをレオンの前にドサッと投げ置いて、

「朝ごはんよ」

 と言って去ってしまった。


「どう考えても火ぃ起こせってことだよな、これ……」

 だが、火を強くする道具はあるが、肝心かんじんの起こす道具が無いのだ。

 チラとあおいだ空の太陽はこずえの向こう。だが、川岸では直射日光がバンバン当たっている。

「……そうだ!」

 レオンは剣と枝を数本握って川岸に走り、剣をさやから抜いた。

(グラードシャイン……光の剣……こいつを使えば!)

 小学校で習った、ルーペの原理。日光を集めれば焦点しょうてんが高温になり発火する。

 さて、しかし思い付いたもののどうすれば良いのか。

 よくファンタジーの世界で魔法使いがやる様に、呪文を唱えてポーズでも決めるか?

「……一点いってん光集こうしゅう

 つぶやいてみて、自分のセンスの無さに気付き愕然がくぜんとする。

(一点光集……日光……光集……えぇい何でも良いや)


日光浴にっこうよく!」


 何か大幅おおはばに間違えた!

 しかしさけんでしまった彼はままよと剣を高くかかげ、つばを支点にくるりと逆手さかてに持って切っ先で枝に触れる。

 ピカアァッ!

 剣が強く輝いて、彼は目を細めた。

 やがて枝から煙が出た。

「おっしゃ!」

(光の剣…使いこなせそうだ!)

 火を大きくし、枝をたばねてサンリアの元へ走る。

「見ろサンリア! 火点けたぞ!」

「……点いてないよ」

うそっ!?」

 火は消えていた。走ってきたせいだ……。

「もういっちょ!」

 めげない彼であった。



 サンリアが見つけた少し開けた場所で、朝食を作ることになった。

「こういうとこ、別の世界の成れの果て、らしいわよ」

「なるほど……急がないとそのうち俺らの世界もこうなるのか……」

 レオンは広場のすみこけむした地蔵の様な石像を一体見つけ、誰にともなく祈った。

 レオンの種火たねびを使って、サンリアが火をおこす。風の剣を使っているのか、何もせずとも火はすぐに大きくなった。ふいごは要らなかった。


 朝からサンリアが調理したのは、昨晩ほふった狼の肉だった。骨を煮込んだ獣臭い匂いが辺りにただよっている。

 レオンは初め、骨と皮のついたそのままの肉塊にギョッとしたが、サンリアがあばら骨から鍋に肉をこそぎ落としているのを眺めていると、お腹がぐうぅと鳴るのだった。

「そういや昨日の晩は飯食べられなかったから腹減ったな」

「でしょ。そう思って、昨日から川でさらしておいたから血抜きはばっちりよ」

「いつの間にそんなこと! 次やる時は俺にやり方教えてくれ、そしたら俺がやるから」

「えぇー……いいわよ別に……」

「いや、力仕事は俺がやるから」

「そう? 何かしばるもの持ってるの?」

「ああ、ロープがあるよ」

「それなら次はそれ使ってやり方教えるわね」

「おう! 今日はありがとな」

「こ、この位何てことないわよ……」

 サンリアは口をとがらせてだまってしまった。レオンは気にせずサンリアの手際てぎわを眺めていた。

 サンリアは荷物袋に鍋とおたま、スティックとおわんを持参していた。

「ああ、そういえばお椀、一つしかないや。どうしようかしら」

「サンリアが食べ終わったら貸してくれるか?」

「……んー……いいけど」

 何故か顔を赤くして、彼女はうつむいてしまった。レオンはそれも気にせず、鍋の完成を待っていた。


「……本当はもっと煮込んだ方が美味しいんだけど、ちょっと朝からやる料理じゃなくなるからこの位かしら」

 サンリアは器用にお椀とスティックを使って食べた後、「悪くないわよ」と言ってレオンにお椀をよそって寄越よこした。

「ありがと、いただきます」

 レオンは恐る恐る狼肉のスープを口にした。うまい。空腹は最高のスパイスと言うが、それを差し引いても食が進む。レオン個人的には塩味が効いていた方が好きだが、肉本来の味というのも悪くない。

「うまい! 肉食獣の肉ってマズいって聞くけど、全然そんなことないな」

「食べたことなかったの? しっかり血抜きすればそんなものよ」

「匂いも気にならない、この野菜のおかげかな。めちゃくちゃ合うな」

「それは行者ぎょうじゃにんにく。一昨日取ったものがまだ残ってたから入れたの」

「スープも美味しい」

「うふふ、豚骨スープならぬ狼骨スープよ。夜営やえいしながら煮込むと朝にしっかり出汁が出たものを食べられるんだけど、まあそれは次回かな」

「これよりうまくなるの? やべぇな」

 レオンがスティックをフォーク代わりにしながら何度もお替わりしてパクパク食べていると、サンリアは嬉しそうな顔から、ちょっと後悔している顔に変わってきた。

「んー……私ももうちょい食べとくべきだったかな。それ食べ終わったら一旦お椀返して? お替わりしたい」

「いいけど、……えーと、俺口付けちゃったんだけど」

 今度はレオンが赤くなる番だった。

「今更気にするの!?」


 食べ終わると、サンリアは残りの骨と肉をロープで縛って放り上げた。するとそれは風船のように上空へ舞い上がり、木々の背よりも高い所でふわりと浮かんで止まった。

「残りは日干ひぼしにするわ。このままウィングレアスの力で浮かせておけば勝手に干されるから楽なのよねー。多少じーちゃんのおやつになっちゃうけど」

 サンリアの言った通り、早速シロフクロウが一羽、肉の風船に取り付いていた。

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