一筋の光…弐…

光の剣、グラードシャイン

 レオンはサンリアと共に森の中を歩き始めた。せっかくだから、レオンの世界を見てみたいとサンリアがたのんできたのだ。剣を持ったままでは町中は歩けないから、神社までなら……という条件で、彼はみちあんないを引き受けた。

「それにしても……そのけん、グラードシャインのはずなんだけど。さいしょはそんなにシンプルなのね、形も全然ちがう」

 サンリアがレオンの持つ純白の剣をのぞき込んで首をかしげる。レオンはパシパシと片手で剣をはずませながら言葉を探した。

「その、何だ、グラッドシャインがお前のウィングレイスと形がいっしょって保証はないだろ」

「ウィングレアス! それに、グラードシャインよ!」

 んなややこしい名前が言えるか、とレオンは頭を抱えた。

「私のと違うのは当たり前なんだけど、じーちゃんが持ってた本にってるグラードシャインの絵とも違うのよ。

 それは進化する剣だってじーちゃんが言ってたわ。その性質を持つのはしちしんけんの中でゆいいつ、グラードシャインだけ……」

「って事は他にもあるのか?」

「うん。七本あるから七神剣よ。

 ひかりの剣グラードシャイン、

 ほのおの剣エンブレイヤー、

 かみなりの剣プラズマイド、

 かぜの剣ウィングレアス、

 おとの剣オルファリコン、

 みずの剣アクアレイム、

 の剣ディスティニー」

「わあ、無理だな!」

 いさぎよく覚えるのをあきらめたレオンは、サンリアと、彼女のかたのじーちゃんににらまれた。

「何が無理なのよ」

「覚えるのが。ってか、集めるのも無理じゃね? 何年かかるんだか」

「そんな事無いわよ……多分。剣は剣を呼ぶんだから」

 サンリアは自信なさ気にこままゆになりながらうなっていた。

 レオンにもようやく、嫌な予感がし始めた。剣が剣を呼ぶ、ということは、だれかがこの剣を持って、サンリアが今やっているように、他の世界の剣の仲間とやらをむかえに行くことになるのだろう。そしてこの剣とともたびをする誰か、とはつまり。


「ふーん……で、それだけ?」

 レオンはえて、突きはなすように彼女に声を掛けた。

「え?」

「それを俺に話して、どうするんだ?」

「どうするって……」

 サンリアは言葉にまった。いや、くつでは分かっている。剣の仲間と共にぼうそうする森を止めるのだ。そのためには一人も欠けてはならない。光の剣の主を仲間にして、次の世界へ向かわなくてはいけない。

 ……と、分かっているのだが、どうしよう。この何も事情をあくしていない少年と一緒に、旅を続けるのか。それを彼になっとくさせるだけの材料はあるのか。

「……ホントはね……」

 彼女は一つためいきをついて、また話し始めた。


「……私だって、村をはなれてたった一人で……じーちゃんはいるけど、でも一人でこんな森の中歩き続けて……

 ……たまらなかったわ。ちっとも楽じゃないし、あぶないし。世界のはざの森の中には知らない生き物もいっぱいいるし、食べ物だって探すのも大変で…自分の世界でれたルールの中で生きるのとは全然違ったわ。

 そんなとこで今までずっと一人、光の剣がこの辺りにあるっていうじーちゃんの古い記憶だけにたよって……。

 だから、グラードシャインを抜いた貴方に会えて、すっごくすっごくうれしかった。」


 レオンは彼女のとなりでそれを聞いてほほに血がめぐるのを感じた。会えて嬉しいなどと女の子に言われたのは、もしかすると人生で初めてかもしれなかった。

 しかしゆうどきさいわいしてかサンリアはそれに気付かずに前を見て続けた。

「でも今、どうしたら良いのか分かんない。

 多分貴方は世界を救うって言ってもピンと来ないだろうし、貴方には貴方の生活があるだろうし……。

 うん、私はさ、じーちゃんがいるし、元々特別な村長こうだったし、クルルが剣だし……だから良いんだ。

 でも……幸せそうな顔してる貴方に、一緒に来てなんて……言えない。」


 とらえ方によっては失礼な告白だが、それが彼女のほんである事は間違いなさそうだ。

 レオンはしばらだまってを進めた。

 〈弟〉がいなけりゃ、という昼間のシオンの言葉。

 軽い気持ちでいたのだろうが、あれも兄の本音だった。

 たしかに今のままでもレオンは幸せだ。何の苦労もせず、日々やりたいことだけをして生きている。しかし、それはぬるまだ。与えられた幸せであって、彼が勝ち取った幸せではない。いつかは出なくてはいけないらくえんなのだ。

 神社のうらとうちゃくした。しゃようが赤いとりを照らす。ここからは、今まで通りの世界だ。

 うつくしく、あたたかく、平和な世界。

 でも。


 ものめずしそうに辺りを見回すサンリアに、レオンは声を掛けた。

「……一緒に来てって言ってみれば?」

「……は?」

 サンリアがめんらったような顔をする。レオンは、今の言い方は上からせんのようで良くなかったかもしれないな、とあわてて首を左右に振った。

「俺もまぁその、今の生活で良いと思ってるわけじゃない。楽な生活は捨てがたいけど、ずっとは続かないって分かってる。

 だから多分お前に言われたら……行くよ、俺」

 わざと、われながらこまった奴だ、という表情をしてみせたレオンの顔をサンリアは穴の開くほど見つめて、あきれた様に笑った。

「……何てやつなおじゃないのね」

「どっちがだ!」

 そのツッコミが彼女のきんせんれたらしく、サンリアは声を上げて笑い、レオンにくすぐったい思いをさせた。


 夕日が最後の力をしぼり二人のほほあかめて、消えた。


「……うん。私と……」


『こりゃ! ワシのまごに変な事を言わせるな!』

「なっ!?」

 レオンは思わず飛び上がった。鼓動こどうものすごく速い。

「じーちゃん!? 何ワケの分かんない事言ってんの!」

 サンリアがおどろいて首をめぐらすと、フクロウは飛び立ってレオンの頭をつついた。

「いでっ!」

『中々話が進まんから苛々イライラしとったら、とんでもないげんを取ろうとしよって!

 良いか、おぬししかおらんのじゃ。

 剣の主は使命をびておる。つべこべ言わず旅に出るんじゃ!』

 いきどおりにまかせてバッサバッサと羽ばたくフクロウを、レオンはあっにとられて見つめた。

しゃべってる……」

『当たり前じゃ! サンリアの説明聞いとらんかったんか!』

 じーちゃんの声は耳にはホーとフクロウの鳴き声に聞こえる。しかし同時に、のうないに男の声が聞こえたような気になるのだった。

「聞いてたけど……当たり前か?」

『そうじゃ!』

「……そうか」

 ……言い切られるとはんろん出来なかった。


「で、……使命だと?」

『そう、剣の仲間と共に世界を救うじゃ。……と言っても、どうやらお主には、くどくどと話すより見せた方がかんたんそうじゃの』

「見せる?」

『うむ。ワシが見てきた世界のめつぼうをひとつ、お主に見せよう。グラードシャインを突き出してみよ』

 レオンが言われるがままにさやに入ったグラードシャインを前に突き出すと、じーちゃんがその上に飛び乗った。


 またも、かいがジャックされる。

 目の前に広がったのは、森の中をしんぐんするへいたいたちのえいぞうぎん色や赤色、黒色のよろいを着たへいへいしゃく兵のつらなり。

『見えておるな? これがイグラス、よるたみぐんぜいじゃ。じょうじんは自身の存在する次元をまたはざの森をわたることかなわぬが、夜の民にとっては全てがつづき。普通の森と変わらぬ。ゆえしんりゃくが可能となる。森を暴走させれば勝てる、一方的な侵略じゃ』

「森が暴走すると、どうなるんだ?」

 レオンがたずねると、こうけいが切り替わる。

「うっ……わ」

 見せられたのは、ごくだった。

 ビルのような大小のけんぞうぶつが、街が、全てえている。

 雲までがすかのように、暗く、あかく。

 炎の中で人々がまどっているのが、とおからでもはんべつできた。

 音は聞こえない。映像だけだ。それでも、レオンはさけごえけむりにおいをさっかくした。

「何で、燃え……」

『森によって、元の次元とかれてしまったモノのまつじゃ。どうやら、次元というものはちょうじりを合わせようとするらしい。あるてい世界が森におおわれてしまうと、もはやのうはんだんするのか、このようにして……しゃくずれ、やまこうずいあらしなみ……何らかのさいがいが起こってつじつまは合わされ、いずれかいめつ的な事になる』

 じーちゃんは淡々たんたんと説明しながら、グラードシャインから飛び立った。視界の戻ったレオンは、ぼうっとその姿すがたながめた。のぼり始めたまんげつが、上空のシロフクロウを銀色にかがやかせる。ゆめのようだった。……悪い夢であれば、良かったのに。

「俺の……世界も……?」

『全ての災害からのがれる方法があるかの?』

 そんなもの、ない。

 少なくとも、このせかいに住む限りは。


 レオンはゾッとした。この国は何度も災害にわれている。このままいけば、次は、俺の住む町、ということか。

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