純白の剣
森を出て、神社の
たまに今日のように森へ兄のカメラを持ち出しては、
しかし、兄のシオンはこの森の良さを知らないようだった。神社の裏に
「おう、お帰り」
レオンが昼食をとりに帰宅すると、
「ただいま! 昼飯なに?」
「お前なぁ、たまには手伝えよ……。昨日の残りのミネストローネと、サンドイッチと、
手伝う余地がない。さすが万能の兄である。
「シオンは良い
「まかせろ、いつ彼女に
「えーっ、俺のせい?!」
レオンが
(……まあ、俺のせい、だよな)
レオンは玄関の
レオンとシオンは連れ子同士で血が
レオンは中学を卒業したあと、高校には進学せず、
「お前は今は自分のやりたいことをしろ。金のことを考えるのは大人になってからで十分だ」
と男前な言葉が返ってきた。だからせめて、良い写真を
「早く食えよ、ほら」
「お、ありがとう! シオンは良いよなー。料理上手で」
「まーお前よりはな」
「俺だって一通り習ったぞ?!」
「俺に、な。どうせお前
「ん、今日は彼女のところへ行くのか?」
シオンは真っ黒なコーヒーを飲みながら目を閉じ、レオンを無視した。
「行くのか!?」
「……それがどーした」
「行くなら泊まれって言いたかっただけ!」
「手の掛かるレオン君がいるから泊まれませーん」
「料理ぐらいなら大丈夫だって! そのかわり……」
「……
つまり、下ネタである。昔は
「おう! たまにはきっちり教えてくれよな!」
「まだ早いだろ。お前彼女いないし」
「気になるもんは仕方ないだろ!?」
「断・固・と・し・て・拒・否・す・る」
「ケチ~!」
レオンは口を
「ごちそうさま! 今日もうまかったよ!」
「そりゃ良かった。じゃ、掃除の続きしますか」
「あ、待って待って! 今日はすげえもん撮ったんだ、ちょっと見てくれよ!」
「へえ……?」
シオンに見せるためにカメラをパソコンに
「今日のはここからか? ……ほー、こりゃりっぱな老木だな」
「だろ、それにほら、ここ見て! ……あれ?」
「ん?」
写っていない。
あの美しい剣は、写真には一枚も写っていなかった。
「……おかしいな。ここに剣が
レオンは
まずい。
すごいものを見せると言ったのに。
失望、されてしまう、のでは。
そうなったら、俺は。俺の立場は。
「……
シオンが軽く笑う。レオンは
「いや、ホントにあったんだって……そう、こんくらいの大きさの、何の
早口でまくし立てるレオンを、シオンが面白そうに
「それに、そうだ、抜いた時にサレイ母さんの声がしたんだよ! レオン、って……」
その
レオンは兄の様子を見て、自分がやらかしたことに気付いた。
「……今のは笑えない
「違う、違うんだシオン! 冗談言いたくてウソついたんじゃない……」
「ふーん。まあ、夢で会えただけでも良かったな」
「う……」
夢じゃなかったはずなのに、本当に手に取り声を聞いたはずなのに、それ以上主張できる雰囲気ではなかった。しかも、その後に展開された光景は、本当に夢を見せられていたのかもしれないと、自分でも思えてしまうのだ。
「……俺、昼からもっかい見に行ってくる」
「良いぞ、俺は掃除の後は彼女のとこ行ってくるから」
「分かった……」
シオンは今の彼女ともう二年近く付き合っているらしい。
兄がいないと生きていけない、というわけではない。と思う。
明日から結婚して家を出ていくから、と言われても大丈夫な心がまえは出来ている。
しかし、この家に二人で住んでいる限りは、兄に見放されるわけにはいかなかった。お前が出ていけと言われたら、レオンはとたんに途方に
(サレイ母さんの話は危なかった)
レオンは再び
──レオンはこの時まだ知らなかった。
レオンにぶつけられた夢のような光景、遥か彼方まで見渡せるくらい
義兄から出てくる言葉は、また違うものになっていただろうということを──
レオンが剣を抜いて見た、世界を
今そこにいるのは、黒髪の男女だ。男の方は、この世のものとは思えぬほどうつくしく、血の通わぬ大理石の肌を持ち、
「ああ、始まったね、リン。」
うつくしい男が声を掛ける。
「はい。仕上げの
「お前は、まだそれをやるのかい?」
「ご
「……ご悲願、ね。フ、フ……リン、私の願いはね……」
男が
「……絶対に、
そうしてスッと消えうせた。
残された女は立ち上がり、深呼吸して首を振る。
「絶対に、叶えてみせるわ。」
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