第四十五回「灰原先輩という存在」
★
夕暮れ時文化祭も終盤。
生徒達もこの後に始まる後夜祭のことで気持ちが盛り上がっていた。
ま、俺には関係のない話。リア充どもの祭典だ。精々一度きりしかない青春を存分謳歌してくれたまえ。
ようやく長い拘束から解放されソウルイーター先輩と別れた俺は、依頼を受けた各クラスから大成功の報告を受けて安堵していた。
感謝してくれるのは嬉しいが大袈裟だ。俺は大したことをやっていない。全てはクラスメイト達の団結による賜物。
でも、喜んでくれるのは素直に嬉しいもの。大した力にはなれなかったが成功したのならそれでいいだろう。
それでソウルイーター先輩の相談事はどのようにして纏まったかというと、長くなるので割愛するが、今日告白できなくてもその日の前段階として、デートへ誘い好感度をどんどん上げていくということ。その第一弾として紅羽先輩を後夜祭でダンスパートナーへ誘う方針に決まる。
まあ、幾ら見栄えが良いだけのハリボテポンコツでも、ここまでお膳立てすればそれなりの結果を期待してもいいだろう。
それで現在の俺はというと、役目を全うしたご褒美にハンバーガーを食べていた。大豆肉にこだわった一品で、誰でも食べれるように触感とかソースとかかなりこだわって調整してある。
ここは屋上にあるリゾート風オープンテラス風のレストラン。ここも俺が所属している料理部が受け持っている。
ヤシの木のモニュメントが観光地感を演出しているが、今日は思ったより風が冷たいのでお客さんは震えながら食事を楽しんでいた。
あー、食堂はあくまでもお昼の間のおばちゃん達のサポートで、こちらの経営が料理部のメインである。
忙しい中サボったお昼の腹いせか部長が鬼みたいな値段をふっかけてきたので、責任を感じた俺は退部を願い出る。でも簡単に向こうから折れた。俺がいないと困るみたいだ。そこまで本気で打ち込んでないのでお情けで引き止められているのだろう。
俺が定期的に提出してるレシピなんて大したことはないのだがな。
何だったら私の処女もつけると言ったのでそれは丁重に断った。冗談だとしても美人なんだから自分を大事にした方がいい。
それにしてもぼっち飯はうまいな。余計な気遣いをする必要はない。ただ単にそこにある食べ物をむさぼる幸せ。食事に集中できるから堪能できる。ましてはここにあるメニュー全て部長が手掛けた本気メシ。
俺が認める数少ない人だ。妥協は一切ない。メチャ美味い。
ましては青春時代に三回しか経験できない文化祭、その一幕の中に俺がいるのだ。まだ実感はできないがこれもいい思い出に変わる時が来るのだろう。
「——おーす! 海ちゃん何を黄昏ているばい?」
「イケメンがかっこよくおしるこを啜っていてる姿があまりにも滑稽でうけるべさ」
「何か用か、博多と北海道の南北コンビ」
「「 コンビじゃない」」
仲良くユニゾンした。
いつもひとくくりにするなと騒いでいるが、ペアでに行動してるそちらが悪い。
「悪いな。馬鹿にしてるわけじゃない。その方が認識しやすいからだ」
「もっと悪いたい!」
「ひどすぎるだべ!」
「それより二人とも、こんな所まで食べに来てもお金あるのか? 入り口に値段書いてあったろ?」
ここはお金が高めに設定してある校内一の高級レストラン。部長がこだわり過ぎてコストが掛かった為にお金に余裕がある人に限られている。なので貧乏人ましてや学生では手が出ない。
「違う違う、海ちゃんを探しにきたばってん」
「料理部の部長なら何か知っていると思って。スマホの電源は入れといてよ」
「あ、済まない。わすれていた。で、俺に何かようなのか?」
「海ちゃんうちのクラスのこと何か聞いている?」
「うちのクラス大盛況だったじゃん。このままぶっちきりだと思っていたべ」
執事&メイド喫茶が大ブレイクで凄い賑わいだった。よほど美男美女揃いで盛り上がっていたんだろう。
「そうだな。でも残念ながら交代してから一度も顔を出していないから現状如何なっているのか全然掌握してない」
「実は午後のメンバーがやらかしてしまって、売り上げが首位にいたのに今じゃ最下位で閑古鳥が鳴いているたい」
「大馬鹿だ。だから海青に教えを請えと助言したのに馬鹿にしくさって」
「なんでそんなことになったんだ。普通にやっていれば維持できただろうに」
「あれだけクレームが立て続けに起きたらなめてかかったんだとしか言いようがないけん」
「そうそう、あんなもの誰でもできると思ったのが敗因じゃないかな。午前の部は海青が一人で無双していたから保っていたようなものであって、いなければ総崩れは必須だべ。人生なめている」
「そんなことはないと思うけどな、 誰でもできる簡単な仕事だ。たかがコーヒーを出したぐらいで大げさだ二人とも」
大したことをしていない。ただ単にコーヒーと紅茶を出しただけ。それだけ。逆に俺の好きなことをさせてもらったので申し訳ないぐらいだ。
「よく言うよ。酸化させないようにクーラーボックスに保管してあるコーヒー豆を注文と同時にミルで挽いてからドリップするぐらい拘っているんだから 、海ちゃんじゃないと店を制御できないよ」
「海青はコーヒー バカだべ。性格と違って豆と言うかお母さんと言うか」
「お母さん言うな、白石の頬についた クリームを拭くぞ」
ソフトクリームを食べたんだろうか、白石はべっとりついているクリームを慌てて 袖で拭う。
可愛い系の男である白石だから似合うのであって、細マッチョである体育会系の黒川ではどう逆立ちしても似合わない。一部いる特殊性癖がある女子達が喜ぶだけだ。
「じゃあ、どこのクラスが一位になったんだ?」
「あの三年三組。素行の悪い奴らを一か所に集められたようなクラスたい」
「悪名高いカリスマギャル灰原先輩がいるクラスだべ」
「ああ、灰原先輩ね。 さっきすれ違ったよ。俺あの人こと耳にしたことないんだよな。 ちょっと前に初めて耳にしたんだ」
俺は灰原先輩を何もしらないのでソウルイーター先輩を目の敵にしているギャルとしか認識していない。
それにどう観察してもカリスマがあるようには感じない。
どちらかというと荒くれ者達を束ねる女ボスまたはスケバンが妥当ではなかろうか。その証拠に取り巻き達は噂が囁かれている知名度があるアウトロー達で固められている。
俺も昔大きなグループだから行き場がないなら来いと誘われたことがあった。でもそれが灰原グループだと知らなかった……。
「うちのクラスにも何人か取り巻きがいるたい。海ちゃんに絡んできた輩もそうだ」
「聞いた話によると灰原先輩は海青が仲間なるのを断ったのが気に食わなかったらしくて潰そうとしているだべ」
「そうなのか? 別にアクションを起こされた覚えはないぞ」
トラブルに巻き込まれたり、絡まれたりすることは断ってからよくあるけど、灰原先輩とは何も関係ないだろ。
「そう思ってのは海ちゃんだけで、案外相当攻撃を受けてるかもしれないばいね」
「それは十分あり得るさ。海青は案外鈍感だから気がつかないで行くかもしれないよ。女の子からモーションとかアピール受けても全然気づかないだろ?」
「何のことかわからん。俺がモテるわけ無いだろ?」
「これだもんなぁ。やってられんよ。部長さんとか委員長とか絶対気があると思うんだけどな……」
「料理部の部長さんはどうかわからないけど、五十嵐さんはないよ、絶対ないだべよ」
どうしたんだろうか、白石は力一杯に否定する。
まるで本人が五十嵐のこと気になってるという言い方だ。…………まさかな。今白石に鈍感と言われたばかり、特に恋愛に関しては致命的に駄目だ。だから余計なことを考えないようにする。
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