第三十四回「ソニアと紅羽は治安問題に悩む」(ソニアサイド)
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「………………」
「………………」
会議が無事に終わり下校の帰り道。暫く振りで帰宅を共にする私と紅羽君。
日暮れ時なので歩く影がぐんぐんロングに。背が低い私でも対等な自然現象なので尚心地良い。なので歩幅が違うから油断すると距離が離れていくのはいただけない。
私の住まいは学校からそんなに離れていなかった。だから徒歩で十分足りる。ただ、隣街の繁華街にある塾へ通っているので結局バスと電車を使っていた。
なのでバスと電車で通学している紅羽君と会話をするにはいい距離だから、徒歩にて駅へ歩いていた。
久しぶりに一緒に帰らない? 語りたいこともあるしさ——という風に紅羽君に誘われたので断る理由は何もない。
元々私の方から誘うつもりだったのでありがたい申し出。
なれど何の話題を振れば正解なのか皆目検討もつかないコミュニケーション能力低めである私はまごついていた。
生徒会長だからといって天性のおしゃべりや討論が特技というわけではない。勉強しかしてこなかった本の虫に話術などあるはずもなく、意中の異性と気兼ねなく会話する高等技能などオリンピック選手並の難易度だ。
「………………」
「………………」
「ソニアちゃん体の調子はどうかな? 最近は保健室にあまりいないみたいだけど……」
長い沈黙の末、戦端を開いて重い口を開いたのは紅羽君。 私へ先制攻撃を仕掛ける。
話題としては中々自然なジャンル選択。これなら暫くは途切れない。ただ私が気を使われているのでトークの主導権は不利だ。
「調子はいいんですよ。忙しいのもありますけど大抵は生徒会室で作業してます」
「うん、確かに。最近顔色が健康そうだ。声色も気持ち覇気が感じる」
「そうですか?」
「うん。なりより楽しげだ。今までは何事も苦痛混じりだったのにそれがない」
何気ない会話。紅羽君の笑顔がとても素敵だ。しかもまじまじと観察して感想まで聞かされるのは中々破壊力がある。
「そんなに酷かったのですか……」
「もっと体を気づかわないと駄目だよ。ソニアちゃんは自身に厳しすぎるきらいがあるから」
「ご心配を掛けてごめんなさい」
「僕みたくいい加減ぐらいで丁度いい」
「いや、それだと自堕落になってしまいます」
「それは酷いなぁ」
私達は笑った。
「でも、どうして準備委員会の委員長になったのですか? 矢面に立つのはあまり好きじゃないでしょ?」
「強い推薦があったのと、ソニアちゃんの助けに少しでもなれたらと。生徒会の負担が軽減する為にも陰ながらサポートできることはしないと……」
「ありがとうございます」
「まぁ、逆に足引っ張ってるような気もするけどね。はははっ」
申し訳なさそうに頭をかく紅羽君。爽やか系スポーツマンなのでどんな構図も絵になる。
「そんなことありませんよ。内容はともかく、性格が全く違う委員を一つに纏め上げてくれてるのでとても扱いやすです」
「そう言ってくれるとありがたいよ。文化祭を成功させたいから」
「はい、やるからには文化祭を盛り上げたいです。 長年開催している中でも一番と言われるぐらいには。開催サイドも来場者さん達も全て笑顔になる催し物にしたい。だからこそ妥協したくないんですよ。 誰かが締め付けないとどんどん暴走していきますからね」
「頭上がんないです。ははは」
紅羽君の笑顔は何度も何度も私を救ってくれた。励ましてくれた。それは私にとって羅針盤であり光だ。
運動着から剣舞高指定ブレザーに着替えた紅羽君はかっこよかった。
精細なサンセットカラーに染まった顔を眺めていると普段抑えていたときめきが心の防波堤を越えてざわめき出す。
「……………」
「ソニアちゃん どうかした? いきなり黙っちゃって。なんか気がかりでもあるのかな」
「なな、なんでもないです!」
私はわたわたと慌てて否定した。紅羽は 変な女だと思ってるかもしれない。
当の本人は一緒に歩くのが嬉しくてついスキップしたい気持ちを御し、脳内で葛藤しっぱなしだった。
「話変わるけど、窃盗事件について何か聞いてる?」
「緑川先生や赤村前会長からおおよそのことは聞きましたよ。」
「僕は危惧してるんだよね。 文化祭開催時に被害がいいんだけど……」
「それは大丈夫。人の目があるから大胆な行動には移らないではないでしょうか」
「そうとも限らないよ。人を隠すには人の中と言う言葉もあるしね」
お客さんに紛れて堂々と侵入して来るということかな……。
「そうなら警戒強化しなきゃいけませんね。本来なら風紀委員独自で動くのですが、緊急時なら私が統括して警戒態勢に当たらないとならないです」
「人手は足りるのかな? 風紀委員長もソニアちゃんが兼任しているじゃないか。会長の責務を負いながらを風紀委員長として 陣頭指揮をとるのは僕は賛成できないな」
心配そうにこちらを伺う紅羽君。深く嘆息をつくぐらいだから、呆れているのだろうか?
「任せられる人がいないんですよ。風紀委員との連帯はそれなりの経験を積まないと お互いの信頼関係は生まれないので」
「ごめん、僕が空いていればよかったんだけど、準備委員会と部活で手一杯だ」
「謝らなくても大丈夫ですよ。なんとか工夫します」
確かに当日は私も何かとスケジュールが入っている。会長どうしての仕事もさることながら、クラスの出し物にも力を入れなきゃいけない。風紀となるとこれ以上は キャパオーバーだ。
でも当日が暇で空いている人いるかな?
しかもカリスマがあって陣頭指揮に長けている人間。
残念ながら元風紀委員長には頼むことはできない。あの事件で関係修復不可能なほどこじれているから。
「じゃあ、赤村先輩とかどうかな?」
「 …………⁉ あ、確かにそれは盲点でした。でも引退したから今更現場復帰させたくないです。一般生徒として楽しんで欲しいんですよ。最後の学校生活ぐらいは。先輩はニ期勤めてるから会長以外でのイベント参加はないんですよ」
「でも、そう言ってられないでしょ。気持ちはわかるよ。すごい先輩だったから。何も考えず普通に楽しんで欲しいよね」
「はい、だからそれはないです。できませんよ」
心から肯定。尊敬する上司にして私にとってはお姉さんみたいなもんだ。本当に本当にいっぱいお世話になった。
お願いすれば二つ返事でやってくれるだろう。もしかしたら私が願い出てくるのを待っているのかもしれない。
だからこそ、だからこそ頼りにしたくないんだ。
「そうなると手詰まりになるよ。結構大規模なイベントだから、ソニアちゃんだけでは絶対無理だ」
「それについては考えがあります」
「何かいい考えがあるの?」
「準備委員の五十嵐さんを引き抜こうかと」
「ええ⁉ あー彼女か、確かにそれはいいかもしれない。でも連帯取れるの?」
「私は彼女の付き合いがありますから」
「でも委員会も実質彼女がまとめ役だからこっちのサポートもして欲しいんだけどな……」
「そこは甘えないで五十嵐さんの分も紅羽君がしっかりやってください」
「マジか……」
紅羽君は苦笑する。 思ってもいなかった布石だったのだろうか、相当驚いていた。
「ところで、その新品のマフラー可愛いね。自分で編んだの?」
「マフラー?」
「そう」
私の首にはマフラーが巻いてあった。
でも古着屋で貰ったボロボロではない。新品だった。
しかも身に覚えがない。気がついたら身につけていた。こわ!
これ誰の?
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