第三十一回「日曜、食料戦線異常あり」ソニアサイド その一



 日曜の朝は静かだ。生徒会長として普段朝は早い方だけど、この曜日だけは七時台に目が覚める。怠惰ですね。

 それにしても家主の自分が感想述べるのもなんだけど、相変わらず何にもない部屋だ。


 質素倹約を心掛けてきた結果、割と広いリビングの中は何もない。食事兼勉強用折りたたみのテーブルがあるのみ。

 もし掃除ロボットがあれがどこにも引っかからないので縦横無尽に無双すること請け合い。

 それどころか引っ越ししてから一度も開けてないダンボールとかも押し入れに積みっぱなしになっているので、私の住まいはほぼ借りた時のまま。

 そのうちはやろうやろうと心に決めていたが、現状維持のまま一年半以上放置していた。


 しかし、いい訳じゃないが別段、友達が遊びに来る訳じゃないので部屋の中を着飾る必要性はない。されど私もカテゴリー上は花も恥じらう年頃の乙女。毎日の掃除や洗濯オペレーションはキチンとこなしている。

 ただ、洗濯物は家の中で干しているから、常に洗剤の匂いが充満しているフローリング。

 外で干してもいいのだけど、隣接する隣さんのベランダと私のベランダがゼロ距離なので、毎日顔を合わせるのは辛いものがある。大都会の埼玉はそんなにぎゅうぎゅう詰めに建物を建てない程、土地がないのか?

  いつも夜のベランダ越しなので直接顔を合わせたことはないけど、とても優しくて親切な方なので埼玉に来てからお世話になり放し。いままで飢えなかったのもあの人のお陰。


 そのうち田舎から名産品送ってもらい、きちんとお礼に伺わなければならない。


 それにプライベートの私を晒すわけにも行かない。

 ここまでこだわっているのは、全校生徒の見本である生徒会長が私生活はだらしないとあっては示しがつかないからだ。例え仮面優等生と揶揄されても、私はこのスタイルを貫く。


 ただ、私は料理が苦手なのでそこだけ苦慮してる……。


 午前中は推しである『ばっとまん』の投稿弁当で舌なめずりして、比較的緩やかに過ごす。


 あひる『今日の一品も美味そうですねぇ』


 ばっとまん『今回はアイデアが思い浮かばず中々苦戦しました。キャラ弁という縛りがあるので』


 あひる『ライスペーパーをウインナーの代用品に使用するアイデアは凄いですよ。あれなら誰でも簡単に擬似ウインナーを作れます』


 ばっとまん『破れないよう包むのに苦労しました。キャベツやピーマンでも出来るんだから米でも可能とおもったんですよね』


 あひる『ばっとまんに出会った頃から、僕は勇気をもらってました。たかが弁当をここまで彩り豊かにできるものなんだと。小さな弁当箱へ夢と希望が詰まった箱庭を見事に再現している。今日も圧巻です』


 そういう経緯で私は料理ができる人を尊敬している。特にばっとまんは私の希望だ。天才クリエイターと評しても過言じゃない。それだけ色んな技巧を繰り出してくる。工芸品に使っているような繊細なテクニック。芸術に昇華しているものも多数ある。

 本当に何者なんだろうか?

 

 などとお隣さんから貰った胡麻豆腐をお茶請けならぬ水受けにして、憧れのばっとまんと至福のやり取り。

 それにしてもばっとまんのスシサムライのキャラ弁は可愛かった。しかもバラシラシとは……この前食べた蒼山君のとどちらが上なんだろうか?


 ——正午。中古で買った18インチテレビでドロドロの愛憎劇な韓流昼ドラを堪能しながら、醤油の代わりに納豆に必ずついてくるタレを三十円の豆腐へかける。なんならカラシもセットだ。 


  これが今日のお昼ご飯……。蒼山君から 昨日のうち貰ったお弁当は朝一で綺麗に食べた。

 なので、昼と夜をどうやって切り抜けるかが思案のしどころだ。

 ちなみに節約の為ガスを止めているので、基本温めないで食べられるもの中心だ。 だから半額で売っている茶碗蒸しや豆腐なども冷たいまま食べる。

 お弁当はスーパーのレンジを使うから合法的に利用するけど、その他になると目立ってしまうからやらない。


 家の中では学校の体操着だ。部屋着など無駄なものは購入しない。 意味がないので。 

 女子が体操着なのは、一人暮らしの貧乏男子がぱんつ一丁でいるのと同義。苦学生が使う戦闘服だ。しかも中学の。キツくてみっちみち。

 使い捨てコンタクト節約の為、普段掛けないメガネを掛け、田舎者の丸出しで洗濯機を回している。学校ではお金持ちのお嬢様などと呼ばれているが、実際は自分をよくみせているだけの貧乏人。それが本来の武者小路ソニアの実像。


 午後は自宅で勉強をしていた。前日図書館で参考資料を沢山借りてきたのでインプットがスムーズに行われている。

 そんな時、スマホから何の前触れもなく着信。実家からだ。


『——ソニア元気かぁ?』

「あ、あれ、お母ちゃんどうしたの?」


  マグカップに入れた水を飲む。 頑張ってくれている水道局には悪いが水道水はカルキ臭い。


『大した用事はね。米と野菜と山で取れたキノコ送ったっぺ』

「ありがとう 助かるよ!」

『母ちゃんは心配だぁ。 昔から何でも母ちゃん任せだったから家事をまともにできるか不安でしかねぇ』

「大丈夫、何も心配しなくていいよ。 何とかやっているから」


  お国言葉をバリバリ使ってくる母に対して私は標準語で話す。

  普段からそうしないといざという時に素が出てしまうから。大都会埼玉の生徒会長なのに、田舎者丸出しは恥ずかしいから……。


『だども都会は危険さ一杯。もしめんけソニアに何かあっても遠くさ離れているから 駆けつけてあげることもできん』

「しょうがないよ、いい大学や就職するには関東が一番だからね。母ちゃん達の老後を楽にさせてあげるには私が偉くならないと」

『無理さぁするな。もしダメでも母ちゃんが何とかする』

「ありがとう。その気持ちだけ十分だよ」


  米どころの東北で大規模の土地を持つ米農家だけど、さりとてお金があるわけがない。それどころか人を雇っているから人件費がかかり、赤字すれすれのところでなんとか待っている。

  それでも経営者としても意地なのか、親心なのか、私に恥ずかしい思いをさせないよう光熱費や仕送りなど最大限の心遣いをしてくれる。

  だけど逆にそれが心苦しくなって、ほぼ手をつけてない。もし実家が危なくなったら返すつもりだから。


『子供は 親に甘えるのが当たり前。余計な気を使わないで ちょうだいな』

「うん……」


 ああ、親は偉大だな。 一人暮らしになって嫌という程ありがたさがわかった。     

 今までどれだけ私は甘えていたのか……。 掃除、洗濯、料理全てをお母ちゃんが一手にこなしてきた。その他に早朝から家畜とか農作業の仕事も。


 お父ちゃんも負けじに朝から晩まで家畜や畑仕事。社員を指揮しビニールハウスで 果物を作りながら米作りもする。

 二人には頭が上がらないよ。お父ちゃん お母ちゃん大好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る