第三十回「孤独に慣れた筈なのに」そのニ(ソニアサイド)


「ソニアちゃんはあの忌々しい事件をなかったことにすることはできないでしょうね。 私も生徒会メンバー全員を信じてあげたい。だからあの時の判断は正しかった。英断よ。でももう誰も傷つけたくないからって、一人で全てを背負うのは違うわよ。周りの人達も心配してる。いつか取り返しのつかないことが起きるんじゃないかって」

「それは私も危惧しています、しかしもう、私はあんな辛い決断をしたくないんです。 信じているものを疑うのは苦でしかないです。大好きな友達だったんです、みんな。その中で取り返しのつかない罪を犯した人がいるなんて私は信じたくない」


 そう、生徒会発足後暫く後の一学期、学校全部を巻き込み警察沙汰になった大きな事件が発生。その容疑者が生徒会役員全員だった。

 でも証拠が出てこなかったのでこの話は うやむやになる。

 容疑が晴れても一度失った生徒からの信頼を取り戻すことは容易じゃない。

 第一、硬い絆で結ばれた私達の友情と信頼が修復不能なほどガタガタになった。この状態でメンバーが現役復帰しても以前のようなパフォーマンスなど夢のまた夢。


「深刻な問題。あの事件がまだまだ貴女を支配しているんだね。でもそろそろ楽になってもいいんじゃない?」

「……済みません。あ、紅茶を入れたのでどうぞ」


 お湯を沸かしたから茶葉を急須に入れて、紙コップに注いだ紅茶をお客様へお出しする。接客は不慣れなものなのでポンコツ丸出しだったに違いない。


「ありがとう。あら電気ケルト持ってきたの?」

「ああ、 知り合いに口うるさいのがいて、生徒会なんだから外部のお客さんを入れることもあるでしょうって。最低限の おもてなしはできるようにと。私は贅沢品必要ないと思っているんですけど、これだけで相手への印象がだいぶ変わるそうなので……」


 学校に迷惑しかかけない不良の分際で、私にお説教するなんて千年早いですよ。


「あらら……、私も助言したいこと先に忠告ちゃった。ソニアちゃんが自分で気づくの持ってたんだけどなぁ」

「すいません。私そういうことに関しては 無頓着なんで……」

「ソニアちゃんも着眼点は非常にいいよ。学生の本分は勉学。外交でも接客でもない。でも、最低限のもてなしの心は持ってないと」

「勉強になります」


 赤村先輩は私の頭にポンと手を乗っけてきた。そのまま撫でられる。

 久しぶりの感触だった。生徒会長になってからあの事件でクラスでも孤立してしまい、頭を撫でてくれるのはもう先輩しかいない。


「でも、いつの間に優秀なアドバイザーを雇ったんだろう? 私としたことがぬかったわ」

「ただのお節介な小姑ですよ。あいつは……」


 まさか敵にアドバイスところかお弁当まで貰っているとは言えない。


「その言い方だと紅羽君じゃないわよね。ソニアちゃんは信頼してる人にあいつ呼びなんてしないから。はてさて、ではこの 分からずやに言うことを聞かしたMVPの殿方は一体誰なのでしょうか?」

「引っ掛けには乗りません。性別はご想像にお任せします。それに先輩酷いです。私は理解力ある方だと思いますよ」

「ないない。これっぽっちもないわよ。これだけ皆心配してるのに己の信念を曲げようとしないんじゃ頑固者の何者でもないわ」

「うう……」


 先輩が指摘している事は正解なのでカウンターを入れられない。


「まあ、性別はともかく相手がどれだけソニアちゃんを大切にしているか分かるわね」

「え?」

「最近この新生徒会室の雰囲気が明るくない? 一見そんなに変わらないけど雰囲気が良くなった。埃っぽくないしラベンダーのお香を焚いているのかとてもいい香りもする」

「言われてみれば……」


 気づかなかった。最近、生徒会室が居心地いいと思ったら誰かが気を使って綺麗にしてくれてるらしい。

 一体誰が? 


「その子、体が弱いソニアちゃんのことを案じて気を使っているのね」

「それはありえない、ありえないです。あいつに限ってそれはないですよ」


 あの不良が私の弱みを握ること以外で善行をするとは考えられない。


「なら紅羽君がソニアちゃんの体を気を使って清掃してくれてるんじゃないの?」

「ああ確かに。あの人だったらやってくれそうですね」


  あの不良にも紅羽君の爪の赤を煎じて飲ませたいものだ。あの憎たらしい仏頂面も少しはマシになるのではないだろうか。


「そうそう深夜こっそり来てね。自分の手柄を自慢しない子だから、秘密裏に何でもやるんだろうけど」

「そうですね。そのうち泥棒に間違われそうですね……あ、 深夜といえば盗難の件は聞きました?」

「うちのクラスでも被害者が出てるわよ。許せないね女の敵よ。ロッカーに入れておいた制服とか下着とか盗まれてるみたい」

「そんなものですね どうしようっていうんでしょうね?」

「そういう特殊性癖の好事家が世界にごまんといるんだよ。ネットで売りさばけば相当な額のお金が入ってくる」


 それは怖い。そんな変態が世の中に一杯いるんだ……。

 なら剣舞高生徒会長がクマさんパンツを履いていることに気づかれないうちに、普通の下着にチャレンジするかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る