第十三回「秩序と正義は相容れない」そのニ

『それにしても海青は火中の栗を拾うのが好きだべ。半年前の事件で今でも悪夢に犯されているのに』

「 自分でも変だと思うよ。けど本能には逆らえない」


 自ら悪者になって罵倒されるのは平気でも、片や冤罪で罵倒されたことに苦しんでいるのは矛盾している。

 そんなに自身のプライドを傷つけられたのが嫌だったのか?

  それとも硬派を気取っていた冒険少年が、可愛い女の子に情けない姿を晒したのがつらかったのか?

 それとも己の信じている正義が否定されて絶望しているのか?

  記憶が薄れた今となっては真相究明はなかなかうまくいかない。


『それじゃあ規則第一主義の会長さんと馬が合わないぺな。正義より決まりによる秩序ってイメージだもん』

「今日、散々罵詈雑言浴びせられて、追放宣言までされたよ。剣舞高の評価を貴方一人で下げているってさ」

『ありゃありゃ。まぁ、生徒の代表として怒るのは当然だけど』

「そうか? 理不尽に抗わなくて何が生徒の代表だと俺は思うけどな」


 キッチンで育てているミニトマトへ水をやる。

  いつもホームセンターで買っている狭いスペースでお手軽に育てられる栽培キット、サラダとか煮ものとかアクセント付けにとても便利で重宝していた。


 棚にはバジルなどのハーブ系、 サニーレタス、キクラゲの鉢が取りやすい場所へ設置してある。二階ベランダには大根、人参、玉ねぎなどのプランターを完備。鬱陶しいマンションが隣にあるがそれでも陽の光は午前中限定だけど確保できていた。


『僕は応援してるけど。礼儀正しくて真面目だもん。美人だし』

「ヘイヘイ、あの人に比べたら俺はどうせぶっきらぼうで不真面目だよ」

『まあまあスネないすねない。その代わり海青は人情家だし万能スキルには誰も勝てないから。あー、ソウルイーター先輩といえば、今の生徒会って生徒会長以外見たことがないべさ』


 気まずくなったのか、白石は無理矢理話を別の方向へ持っていく。でも、褒められたのは悪くない。絵のセンスはないからよく前衛的と評されるけどな。


「確かに持ち物検査とかの風紀活動もソウルイーター先輩が一手にやっていたな」

『昨日の校門前のことだべか? その他に学校側と予算会議やっていたさ。よくもまあ、なまら体が細いのに体力が持つべ』

「超人だよ、もしくは変態」

『確かに』


  馬が合わないだけで俺は彼女のことを認めてる。別に嫌いじゃないんだ。迷惑もたくさんかけてるし尊敬してるところもある。

 大人の操り人形になってるのが気に入らないだけ。対価をもらっている仕事なら分かる。でもソウルイーター先輩がやってることはあくまでもボランティア、学業の延長線のことだ。 経歴と世間へ媚を売ってるにすぎない。


  一般論でいうと俺の主張は間違っているんだろう。ソウルイーター先輩の行動が正しい。  

 でも硬派を貫く身として、一般には間違っていようと己が信じる正義を第一にして、理不尽なことへは声を大にして否定したい。


 武者小路ソニア。生徒会長だろうと大統領だろうと俺は俺を辞める気はない。

 悪いな生徒会長さん。

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