第十二回「秩序と正義は相容れない」その一
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夕方、九月でもまだ空は暗くない。
今日はひとり寂しく料理を作り新作をネットへあげた。軍曹殿に殴られた頬がまだ痛い。
キッチンで食べ終えた夕御飯の皿を片付けているとショートメールが届く。知らない番号だ。
クラス委員の五十嵐なずなです。
蒼山君庇ってくれてありがとうございました。弟が興味とイタズラ本位で万引きをしてしまったの。私は商品を戻そうとしてカバンから取り出したら警官にみつかったんです。先生に真相を報告したら蒼山君が罪を被ってくれたと聞きました。どうすればこの恩を償えるの? 貧乏だからお母さんに迷惑はかけられない。だからお金は無理だけどそれ以外なら何でもする。だからどうか内密にお願いします。苦労しているお母さんにもう迷惑を掛けたくないの——と真面目な委員長らしい長文だ。
対照的に——大丈夫誰にも言わない。お前さんの今までの努力を無駄にするな。受験や部活もそうだが、ごく一般常識的に世間が欲しいのは努力の過程ではなくてあくまでも綺麗な結果だ。その為なら俺のくだらない経歴を幾らでも使って構わないよ。
あと、委員長が無事なら別段何もしなくていいと、簡単な最後でしめる。
元々接点ないし急に距離が縮まったりしても面倒だ。
いくら見た目がチャラ男でもエロ本みたく脅して貢がせたり慰み物にしたりしないんだぞ。
それより、彼女は五十嵐ってなずなって名前なのか。初めて知った。入学式にトラブルあって出られなかった為、クラスの自己紹介もできないままどのグループにも所属せずぼっち、そのままズルズル行き今に至る。なのでクラスのほとんど顔も名前も分からずじまいだ。
などと感傷に浸っているとスマホが反応、今度は電話だ。相手は……白石?
『こんばんわ海青。委員長がスマホの番号教えてくれっていったから伝えたけど別に良かったっぺ?』
「構わないけど前触れもなしに来るとビビる」
相変わらず訛っている白石。でも、一人で黙々と家事しているよりは退屈にならないので丁度よかった。
『でも、五十嵐委員長が海青に何の用さ。何かまたやっただべか? 例えばクラスの雑巾がまた真っ白になっているとか、トイレが常にピカピカで清掃のおばちゃんがないているとか、クラスにあるメダカの水槽メンテナンスが完璧かつLEDライトとか付いてバージョンアップしているとか』
「なんの事だか知らねえな。大人が勝手に作ったくだらないルールに子供が苦しんでいたから手を差し伸べたって話。あ、水槽にうちで育てた藻と自動えさやり機も付けたな」
白石なら話しても良いけど五十嵐が誰にも言うなと口止めされたので、ここは二人だけの秘密。
『でたっぺ、海青の大人嫌い』
「別に大人全部が嫌いとかじゃない。息苦しい法律とか世の常識を盾に意気がっている連中に嫌悪があるだけ。言いたいこと言えない世の中に反抗するのは子供の特権だ」
軍曹殿は数少ない俺が好きな大人の一人。あんな破天荒な教師見たことがない。
うちの親父と蒼山本家が糞だから尚更だ。
大人は欲望と打算でしか動かない。親の愛情なにそれ? 食べれるの?
それでも藍梨を時代錯誤な芸の道具にさせない為、俺が蒼山家から離れることはできない。
それが俺の戦いだ。
俺が問題起こす度、親父に殴られた。それだけならいいが、じじいから引き継いだ陶芸を始めとした工芸全般技術を嫉妬して本家から追放。理由は蒼山の後継者以上の技量を持ったものは相続問題になるからだ。以来本家の敷居をまたいだことはない。
死んだ使用人から引き継いだ今の家に住む。
そんな酷い、毒親に愛情持てると思うか?
ま、俺のポリシーは変えるつもりはサラサラないけど。
今回は蒼山本家の使用人が先回りして事なきを得ているから親にはバレてない。でも藍梨の話しでは後妻のあの人が勘付いているみたいなので何か仕掛けて来ないか気がきではないがな。
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