第二回 「最悪の入学式 そのニ」


「誤解だ。そこの婆さんが車来ているのに突然道路に飛び出そうとしたから止めただけだよ。そのセーラー服、剣舞高校の生徒だよな? 俺は今日から入学する生徒なんだ」

「嘘言わないでください。入学式にはまだだいぶ早すぎます。こっちに来ないでください! 誘拐犯さん」 

「本当だって、そら生徒手帳…………あれない?」


 幾ら弄っても何も出てこなかった。それはそうだ、生徒手帳は入学してから配布してもらうもの。入学前にあるはずない。


「大体、入学式なのにピアスしてくる人が何処にいるんですか!? しかも目つきが悪い悪人面で!」


 真実を話すのが手っ取り早いのだが、ばあちゃんの名誉のためにもボケているとは言えなかった。それが事態を更に深刻化にすることになっても……。

 これが俺に出来うる人生を生き抜いた者に対してやれる最低限の敬意だ。


 真剣に訴えているけどまったく受け付けないこの子に掴みかかろうとすると、「俺の話を聞いてくれ--」後退りする女の子が石につまずいて倒れた。俺ごと……。


 なんか変な感触がする。昨日蒸したあんまんのような柔らかい触り心地。

 俺は取り敢えず揉んだ、揉みしだいた、「いたた、何をするんですか…………え?」無意識にモミモミと。故意はない。ただ昨日作った饅頭とどっちが弾力があるか確かめただけ。

 そろそろと目を開けると女の子のふくよかな胸だった。学校指定のセーラー服の上からやっちまう。

 至近距離に迫る綺麗な彼女の瞳には俺がくっきりと映っていた。魂が全部吸い込まれそうな深い翡翠みたいな輝き。


「ヘンタイィィ!」


 俺は覆い被さっていたが強烈なグーパンチを顔面に食らい、強制後方宙返りを披露した。


「いたたた痛い!」

「あなた覚悟できているんでしょうね? もし仮にうちの生徒なら退学ですよ! それどころか死刑!」

「だから全て誤解…………あのところでタイツが破けてますよ?」


 タイツが避けて肌が露出していた。倒れたとき引っかかったのだろう。


「変態、社会のゴミ! 貴方がやったんでしょ? この犯罪者! こんなとこで堂々と私を辱める気ですか⁉」

「あのな、なんで人の言うこと冷静に聞けないんだよ! あんたも中学の連中みたく俺を顔だけで判断するのか⁉」


 目つきが悪い耳にピアスをしているだけで札付きの不良認定は普通に凹むわ。

 なぜそうなるのか? 確かに女体へ夢見る年頃だが、俺にも選ぶ権利ぐらいはある。まして初対面の知らない女に欲情するほど俺は落ちぶれてはいない。胸を揉んだのは触り心地が良かったからだ。邪(よこしま)な心はない。多分……。


 確かにこの子は美少女だ……。魂が抜け落ちるかのような絶世を足しても過言ではないくらい美しい。

 綺麗な濃いブロンドボブカット、日本人離れした透き通った肌、整った輪郭、何時間でも鑑賞してもいい綺麗なエメラルドの瞳、間違いなく可愛い。こんな時じゃなかったら一目惚れしていたかもしれない。

 だが、残念ながら今のやり取りで俺がこの子に惹かれる可能性はマイナスになる。よりによって綺麗好きの俺に向かってゴミとぬかしたからだ。


「皆さんどうしましたか⁉」


 どこの人が通報したのか分からないけど、原付きで駆けつけた若いお巡りさん。セーラー服のわからず屋に事情を聞く。

 

「この人、痴漢で人殺しで泥棒です。逮捕してください! うちの生徒が情けない、独房で反省しなさい!」

「この子うちの財産も家も取ったのよ! 返しなさい、この泥棒! その上家族を殺して私も殺そうしたの。この人間のクズ! 恥を知りなさい!」

「違う! 俺は何もやってないいい! いい加減この婆さんの支離滅裂の言動に気づけ馬鹿女!」

「なんですって! 誰が馬鹿ですか。私はこれでも生徒--」


 でも彼女が何か言いかけた時、


 集まった野次馬から罵詈雑言を浴び、応援に駆けつけたパトカーで連行。警察で事情聴取を受ける羽目になる。


 しばらく後、病状と真実を知っている婆さんの家族が慌てて無実を証明し謝ってくれたが、大切な青春の第一歩が最低な冤罪で終わった。

 その野次馬の中には勿論通うことになる高校の生徒達も混ざっていたは言うまでもない。

 勿論学校側も事の顛末は知っているが我関せずのスタンスなので、何かモーションを起こすことはなかった。

 そのせいで俺の学校生活が痴漢泥棒野郎のレッテルを貼られて最悪になる。ついたあだ名が強姦魔。

 クラスでも事情を知っている担任の緑川先生以外、初日逃しているので弁明はおろか自己紹介もできず無視され続けた。

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