第一話『学校一の問題児とソウルイーター先輩』
第一回 「最悪の入学式 その一」
早朝、満開の桜並木見上げながら、花のトンネルを満喫しつつ登校中。桜祭りや夜桜も乙だが誰もいない時間帯に一人、ピンク色な花びら絨毯を踏みしめ散策するのも通好みながら粋でいい。
などと明治時代よろしくモダンに気取った俺は蒼山海青(あおやまかいせい)。高校新一年生。今日から私立緑ヶ丘剣舞(みとりがおかつるぎのまい)高校に通う。
選んだ理由は近場というのもあるが、部活動や有名人を輩出しているのでそれなりの有名校、だからOBになれば箔が付くし就職活動でも笑われることはない。だから俺は凡人だけど使える肩書きは欲しいのだ。何かやるなら料理部で自炊スキルの腕を磨きたいな。
剣舞高校指定の黒いブレザーは太陽光で虹色に反射、ポリエステルがいい仕事をしている。ネクタイは好きだが、学ランは硬派のイメージがあるのでサヨナラは辛かった。
更にもし卒業する時、可愛い後輩の女子から第二ボタン求められても、このブレザーは糸で縫い付けてあるから芳しくない。まぁそんな予定はないけど……。
こんな感じで俺は浮かれている。何ならここでスキップしてもいい。
まだ着慣れぬ新品の制服に心踊らされている気分だが、三年間お世話になる相棒だ、こういうのも悪い気はしない。
なので歓喜が高まり我慢できず家を人間大砲の如く飛び出した俺を許してほしい。蒼山海青の高校生編、想い出の新たなページを刻むために必要不可欠なのだ。
元々早起きな方だが家事もこなしているので普段なら早く登校はしない。しかも入学式は遅いので校門が開いていない可能性もある。それでも誰もいない校内を散策してみたいのは冒険少年を内包している年頃男子の宿命なり。
昨日お祝いしてくれた妹を放ったらかして学び舎へ向かったのは済まない気持ちで一杯だが、好物のビーフシチューを作っておいたから機嫌も直しているであろう。
そんな新たな気持ちで意気揚々と歩道を闊歩していると、その先で年老いた老婆が横断歩道もない所を渡ろうとしていた。
おいおい危ない危ない、などと呟いていると--
運悪く軽自動車が猛スピードで突っ込んで来た、「待て! お婆さん行くな!」と共に婆さんの肩を掴んで引っ張りそのまま尻もちつく。運転手は自分勝手なことを並べながら通過。法定速度大幅に破っている奴は黙ってろ。
「大丈夫かおばあちゃん! 危ないだろう。もっとよく周りを確認しないと⁉」
「ちょっとなぜ私の邪魔するのよ? さてはあんたが財布盗んだの⁉」
何言っているんだこの人?
よく見ると服装が普通じゃない。寝間着に裸足。腰が悪いのか乳母車ぽい歩行器を押していた。
「何のこと言っているのかわからない。ただ道路を渡ろうとしていたから止めただけだろう!」
「誰かぁ! 警察呼んでください! この人が私のこと殺そうとしたぁぁ!」
「してねえ!」
「助けておまわりさん! 殺されるうう!」
「誤解だ!」
この婆さん錯乱している。
どうしていいか分からなくなった俺は取り敢えず警察に通報したほうがいいと決断。だが、遅かった。気がついたセーラー服の女の子が駆け寄ってくる。
「どうしたんですかおばあちゃん!?」
「この子がトラック通過するとき押して私のこと殺そうとしたのよ! 全財産入ったお財布盗んだから証拠隠滅にしようとしたに違いないわ」
「デタラメだ!」
軽自動車がトラックになっているわ。
「おばあちゃん本当なんですか?」
「私は誘拐された家族を探して一旦家に戻る途中だったのよ。そうしたらこの子が口封じのためにバスめがけて私のことを後ろから蹴飛ばしたのよ」
この人まともな心理状態じゃないな……。
いくら慌てていたって外を出歩くには軽装過ぎる。もし捜索していてもパジャマと素足で出歩くなんてありえないからだ。
そう、確信はないけどこのお婆さんボケている……。悪意は感じられないし、故意にやるには芝居が下手くそだ。
今度はバスにクラスチェンジしているし。
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