カリスマ美少女生徒会長である真面目なソウルイーター先輩を闇堕ち(バブみ)させた俺の天然甘やかし好きは罪が重い

神達万丞(かんだちばんしょう)

プロローグ

プロローグ「俺とソニア先輩のお寿司屋さんの厚焼き玉子みたいな甘々の日々」


 家事が生きがいの高校生、蒼山海青(あおやまかいせい)こと俺の一日は早い。

 日が昇ってない時間から、掃除洗濯をラジオ体操のように軽くこなし、春も終わり初夏まではいかない新緑の季節、三階にあるルーフバルコニーで作っている野菜を収穫した後、キッチンでいつものように米を研ぎ味噌汁を作る。

 掌で豆腐を切るのも慣れた物。

 

 ピカピカに磨いてあるステンレスには、相変わらず表情硬い無愛想な顔で弁当用ハンバーグのタネをボールでこねている姿が映り込んでいた。

 でも昔に比べたら柔らかくなった方。それも彼女のおかげかもな。色んなハプニングに巻き込まれているうちに笑えるようになった。 

 

 などと思い出に浸っていたらリビングの掛け時計はもう七時半を回っている。


 さて、そろそろ寝坊助さんを起こさないと……。

 先輩は昨日遅くまで大学の受験勉強頑張っていたからな。ギリギリまで寝させないと加減を知らないのでまた倒れてしまう。

 でも、ドタドタ廊下を走る音がその必要性はないことに気付く。


「ーーああああ! もう! かい君のバカばかぁ! なんでもっと早く起してくれないのかなぁ⁉」

「おはようさん。 やっと起きたか眠り姫様。昨日は俺の家へ泊まったから時間までゆっくり休ませてあげようと気を利かせたんだけど、余計なお世話だったか?」


 部屋着用黒いパーカーを身に着けた少女が凄い剣幕でリビングへと足を踏み入れる。俺が買ってやったお気に入りのクマさんスリッパも使い方雑でいい迷惑だろう。

  

 文句をいう割にはトレードマークのボブヘアから湯気が上がっていた。どんなに時間がなくてもお風呂入るのは女子だけだよな。しかもうちの風呂を勝手に使う。


 武者小路ソニア。俺と同じ緑ヶ丘剣舞高校で一学年上の三年生。

 剣舞高生徒憧れであるカリスマ生徒会長にして先輩? 親友? いや相棒の方がしっくりくるかも。

 もしくは友達以上恋人未満、家族または高校野球のバッテリー。それだけ先輩に信頼を寄せている。向こうはどう思っているかは分からんが……。


「ありがたいんだけど、いつもありがとうなんだけど、生徒会長としては普通登校は格好悪いんだよ!」

「それは自分で起きられない先輩が悪い。カリスマポンコツ生徒会長殿」


 隣のマンションに住んでいるが三階ルーフバルコニーと隣接しているため、暇さえあればそこから俺の家に上がり込んでくる。

 合鍵も持っているのでもうどっちが家主かわからない。


「ポ、ポンコツじゃないよ。ちゃんと努力してるよ。それに他のことはパーフェクトだもん。だからノーカン!」

「ほう、パーフェクトか……先輩の洗濯物とアイロンがけは誰がやってる?」

「かい君です」

「先輩の部屋清掃とゴミ出し誰がやってる?」

「かい君です」

「生徒会が抱える面倒事の処理は?」

「かい君です」

「ソニア先輩の栄養管理と食事当番は?」 

「全てかい君です…………。大体私がここまでダメダメになったのはかい君のせいだからね! この甘やかし魔。自動幸せ製造機」

「否定はしないが、責任転換はやめてもらおうか。結局は判断の結果なんだ人生なんて。だからソニア先輩も責任があるんだぞ」


 しかも批判どころか褒められている……。せめて髪乾かすのと、パンツとブラぐらいは自分で洗って欲しいものだが。目のやり場に困るから……。

 

「いいもん、いいもん。かい君大嫌い。もう絶交だよ!」

「そうか、しかしお前の大好物を全て作れる俺がいないのは死活問題じゃないのか?」  

「そそ、それは……いいもん、彼氏できたら作ってもらうから」

「ほほう、我儘姫の無茶な要求にも即対応してお腹を満せる彼氏か? そんなもん和洋中の三星シェフでも手が余るわ」

「それはかい君が凄すぎるからだよ! 私の注文に即対応できるから。本来はそこまで求めません!」

「第一、ご飯もろくに炊けない家事が下手くそな女子はモテないぞ。特に妙に意地っ張りな面倒くさい女は」

「あああああ! それ言わないで⁉ 古傷が痛むんだよ。私ふられているんだからね! かい君意地悪だよ。たまには私を労ってよ。もっと甘やかしてよ!」


 面倒くさい女と片想いの相手へ盛大に振られている。そこら辺は未だタブーなのだが、ごくたまに口が滑る。

 俺も散々手伝わされたから嫌味の一つは言ってもばちは当たらないと思う。


「これ以上甘やかしたら駄目人間になる。そうなったら任せてくれている親御さんに面目が立たない。なのでソニア先輩の為に特製玉子焼きを作ってあげたからこれで手を打て」

「ええ!? まさかあれを作ってくれたの?」

「約束だったからな」

「やったー! だったらいいや。遅刻してもいいよ。あ、もう休んじゃおうかなー」


 友達以上の関係だけどそれ以上は踏み込まない武者小路ソニア先輩はイタズラぽく微笑む。

 俺が昔栄養不足を補うように、弁当でよく作ってあげた甘々厚焼き玉子はソニア先輩の大好物なのだ。お寿司屋さんで出すとても手間がかかる代物なので最近はそんなに作らない。


「今まで守ってきた優等生と生徒会長のプライドは玉子焼きに負けるのか?」

「カイ君の玉子焼きを食べれるなら悪魔に魂をも売ろう。今ならなずなちゃんのスリーサイズも教えるよ」

「ちゃんと普通に学校は行け。そんなバカなこと言ってると五十嵐にまた怒られるぞ」

「ちぇ、私もなづなちゃんみたくギャルになろうかなぁ」

「全て自分で面倒見られない先輩じゃ無理だ。俺がいないと簡単な化粧もろくにできないんだから」


 五十嵐なづなは生徒会の副会長で俺とソニア先輩共通の親友だ。昔は地味な眼鏡っ娘だったが今はファッションに目覚めギャル化している。


「うううう! かい君の意地悪!」 

「それは最高の褒め言葉だ」


 俺はそう誇りながら出来たてご飯と味噌汁をテーブルに並べる。七輪で焼いた鮭とダイコンおろしも忘れない。

 常温で冷ましておいた先輩ご所望の特製厚焼き玉子も棚から出した。

  カステラのような上質な甘みがリビングに広がっていく。


「相変わらずなんて上質な玉子焼き。もはや芸術の域。というか、ピカピカの五穀米、こだわり赤味噌ブレンドによる豆腐と揚げの味噌汁、採りたて大根のダイコンおろし、自分でさばいた塩銀鮭、そしてハチミツとメイプルシロップを隠し味に使っている至高の厚焼き玉子、わざと焦げ目をつかしている憎い演出。何でこんなシンプルな朝ごはんなのに後光がさしているのでしょうか?」

「大袈裟だ。どうせなら美味しい方がいいだろ?」

 

 褒められて悪い気はしないがそれよりも気になることがある。

 ソニア先輩は髪をろくに拭いていないから、フローリングに水滴がポタポタ滴り落ちていた。床が傷んでしまうからやめてほしいのだが……。

 これはいつものやってよアピールだ。

 俺が気付かないとは梅雨ほども思ってない。

 どんどんバブみ化しているな、この生徒会長は。


「ソニア先輩、そろそろ頭を拭け。風邪ひくぞ」

「はい」


 ニコニコとバスタオルを差し出し頭を突き出す。この甘えん坊……俺に拭けと?


「今日ぐらいは自分で髪を乾かしなさい」

「いやでーす。私はポンコツなのでそんな便利機能はありませーん」


 都合が悪くなるとポンコツアピールする。普段は完璧を誇っているのに。

 さあさあと眼下に先輩が迫ってきた。もはや友人の距離感ではない。されどボーダーラインは引いている。どこまでが本気でどこまでが冗談なのだか俺もわからなくなってきた。


「いつものハグで、かい君エネルギーを充電させてほしいなぁ」

「そろそろそのぐらい自分でやらないと。昔はやっていたろ? 俺達いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだからさ」


  いつも髪を乾かす時はハグしたままやる。妹の時もそうだったがやりやすい。

 でもいつまでも甘やかすわけにいかないのでそろそろ独り立ちを促す。


「い・や・だ。かい君にやってもらわないと気分が乗らない。それに大学卒業しても就職してもそのままここで暮らすんだからいいの」

「冗談言ってだだをこねていると本当に遅刻するぞ?」

「それはそれで嬉しい。学校休んで一日中かい君の側にいれる」

「おいおい、俺も休むこと前提か? それは……悪いが休む気はサラサラないのでさっさとやってしまおう」


 余程嬉しいのかソニア先輩は、「かい君、さあ来い!」嬉々として両手を広げる。


「どこのお相撲さんだと言いたい」

「私は太ってません! 確かにかい君の料理が美味しくてぷくぷくになるのを抑えるの大変だけど……」


 俺は頭を入念に拭いたあと、このわがまま姫を抱きしめた。で、このままの体制で髪をドライヤーに当てる。

 いつも使っているフローラルなボディーシャンプーの匂いが鼻孔をくすぐった。

 先輩は気持ちよさそうに目を細める。


 髪を櫛で梳かしていると、普段髪で隠れてる耳には真面目で名の通った生徒会長に似つかわしくないピアスが目に入った。俺がお礼であげたやつ。 

 その場で躊躇なく耳に穴を開けたのは肝を冷やしたものだ。

 前まで息が詰まるほど真面目だったソニア先輩も、こうしてストレスをためない程度にハメを外すようになる。

 いいことなんだが悪い道に誘ったみたいで罪悪感がなぁ。


「素朴な疑問、 今日生徒総会なのにピアスをしてていいのか?」

「それを君が聞くのかい? 冷たいなー。 かい君からプレゼントしてもらった大切な 贈り物だもん。肌身から離したくないんだよ」

「手作りだからそんな大したものじゃないんだがな」

「もー! 最近かい君優しくない! それに昔みたくソウルイーター先輩と呼んでくれない。もう私に飽きたのね」

「先輩は極端すぎるぞ。名前呼びにしようと提案したのはそっちじゃないか? でもこのあだ名嫌いだったんじゃないの?」

「そうなんだけどかい君が名付け親なんだもん。全然オッケーだよ」


 ソウルイーター先輩とは俺が偶然に広めたソニア先輩の二つ名。

 意味は北欧のハーフである先輩の深いエメラルドグリーンアイズが美しくて心と魂は持っていかれそうになるから。実際、この瞳に心を奪われた知人は多数いる。


「それは光栄。生徒憧れの瞳を独り占めするのは罪悪感があるな」

「わ、嫌だ。なにそのクサイセリフ? 今時そんな言葉じゃ幼稚園も口説けないよ」


 先輩は顔を赤らめる。満更でもなかったようだ。


 今でこそこれだけ不真面目で甘えん坊なソニア先輩だが、出会った当時は真面目を絵に描いたような堅物で、教育機関に不良のレッテルを貼られている俺を目の敵にしていた。


初めて口を交わしたあの時もそう……あれは一年前の春、俺が新たな青春を謳歌するべく高鳴る気持ちを抑えて剣舞高の入学式に挑もうと桜並木の下を潜っていた時のことだ——


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