猫の話をするだけ
古川
猫の話をします
猫を飼っています。なんかでかいやつ。
もらった時はまだ子猫で小さくて普通の猫でした。でもじわじわ大きくなっていって、気付いたらけっこうでかいやつになっていた。
デブとかではなく、でかい。骨がでかい。
この前別の猫を触る機会があったのだけど、その時の頭蓋骨の小ささに驚いた。手のひらで包み込めるサイズ。それに伴ってからだ全体の構造が小さい。え、猫ってこんな繊細な造りなの……?びっくりした。
なので検索した。
「猫の体重 普通」
一般的な成猫の体重は3~5kgが平均的です
倍あるんだが!?
彼(オス)のプライバシーに配慮して正確な数字は出さないけども平均の倍近くある。
私はこの猫しか飼ったことがないので平均的な普通の猫がそんなに小さい生き物なのだとしたら逆に心配である。猫、そんな細々とした体でほんとに生きていけているのか。あんな小さくて薄そうな頭蓋骨で本当に生命を保てているのか。心配である。
うちの猫くらいの骨太さと肉厚感(デブではない)があれば随分と存在に説得力があって、こう、簡単には死ななそうな図太さがあって逆に安心なのである。
決してデブではない。なんでデブではないかと言うと、猫の肥満具合を計るやり方として、猫の胴体を真上から見た時に、腹のあたりが少しくびれているくらいがちょうどいいらしく(検索済み)うちの猫はそう、くびれているのである。わずかでありながらも確かに、くびれているのである。なのでデブではないのである。
よってうちの猫は、骨格からなにからそもそもがでかい猫なのである。カブトムシ界におけるヘラクレスオオカブトみたいな立ち位置だとご理解いただけたら幸いです。
うちの猫って言うのもあれなので、ヘラクレスと仮名をつけて続けます。
ヘラクレスの性格は、普通、だと思われる。平均的な猫と比べようにも猫についての経験がほぼヘラクレスしかない私には、この猫の性格特性をうまく把握できないのである。全体図から見た場合にどこらへんに位置するのかがわからない。でも適度に甘えてくるし、適度に人と距離を置くし、意味不明のタイミングで野生化するし、ごろごろ言ってたかと思うと次の瞬間噛み付いてきたりするし、たぶん中身はごく普通のノーマルな猫だと思う。なのでおもしろエピソードもなにもない。
膝に乗せてほしいときは足元に来て大人しく座り、めちゃくちゃこちらの顔を見てくる。これはヘラクレスを飼い始めて知ったことだけど、猫は本当に人とよく目を合わせてくる。生き物における意思の表れる箇所がそこっていうのを本能的にちゃんとわかってるんだなぁという見方をしてくる。つまり、こちらがなにを考えているのかを読み取ろうとする目でじいっと見てくる。対象物の体が動き始める前に、目の色?動き?瞳孔の具合?などによって一瞬でも早くそれを読み取ることがかつての彼らにとって生きるか死ぬかを分ける、こう、なんかそういうのにとって大事ななんかだったんだと思う。野生の名残っぽくて、農耕民族の末裔としては気持ちがひゅっとする瞬間だったりする。
これが夜にすごく冴える瞬間があって。
ここまでつらつらと猫について書いてきたけど何を隠そう私は猫アレルギーでして、いやでも軽度だから猫吸いをすると鼻がむずむずするくらいだから別にいいんだけど、なのでヘラクレスを自分の寝る空間には入れないようにしていて、だから夜は「おやすみ〜」と言ってヘラクレスのいる空間から出てバタンとドアを閉めるのであるが、その気配を感じ取ると、ヘラクレスの野生が急に目覚めるのである。
自分を置いて寝にいく飼い主が気に食わないのか、ただ単にさみしいのかわからないけども、なんとかして行くのを止められないだろうか、それができなくてもせめて、束の間の妨害くらいはできないだろうか、などという気持ちからなのかはわからないけどもなんか攻撃してくる。
背後から猛スピードで突撃して負傷させる「追尾ミサイル作戦」。暗闇に紛れて徐々に距離を詰めてくる「ステルス探査作戦」。私が通過する瞬間に飛び出てただただ驚かせる「トリックスター作戦」。どれもたいした妨害にはなっていないのだけど、来るとわかっているのに実際来たらけっこうでかい声をあげるくらいには驚いてしまうのである。という一幕を毎夜繰り広げている。
そんな感じのヘラクレスだけども、好きな食べ物はツナ。あの、マグロ類を油漬け加工した食品。シー◯キンと呼ばれるやつです。人間用なのでヘラクレスには基本あげないのだが、他の食品と比べても執着心がすごい。
袋状のやつをよく使っているのでハサミでその口をチョキン!と切って開けているのだが、そのチョキン!への反応が凄まじいヘラクレスである。チョキン!が聞こえると猛ダッシュでやって来る。彼の脳内ではハサミによるチョキン!がすべてツナに繋がっているので、チョキン!がなにを開封したことによるキョキン!であっても飛んで来てしまうのである。
チョキン!の結果がツナでなかった場合はひとしきりくんくんした後で去っていくのだが、ツナだった場合の執着具合がなかなか異常で、そんな機敏に動けるん見たことないわくらい機敏な動きでなんとかしておこぼれにあずかろうとする。
前に少しあげたことがあり覚えてしまった模様。やっぱり猫はあの手の若干海の香りのするものが好きなようで、かつお節なんかへの反応も凄まじい。なのでその手のものをハサミで開封する際には細心の注意でもって慎重に……チョキン……とやるのだがそこはあの耳がしっかり聞き取ってどこからともなく走ってくるのである。野生を感じさせるひとときである。
あと箱がめちゃくちゃ好きで、箱状の物が落ちているとすぐに入るヘラクレスである。
段ボールには三秒で入る。どんな形状でも好むが、入る理由としては、入った状態のままそこで丸くなって寝るのが目的なので、入った(両足を入れれた)にもかかわらず丸くなって体全体を収めることができないサイズだと判明した場合は「はぁ……」と溜め息をつい(たみたいな表情をし)て出ていくのである。
段ボールの形状には頓着しないたちらしく、深かろうが浅かろうがとりあえず足を踏み入れる。底が抜けやしないか、まさか罠ではないか、などと疑うこともない。段ボールへの信頼が深い。中で寝るとあったかいのかもしれない。
それから知らないものへの好奇心がすごい。見たことのないものに出会うと、とりあえずすぐにくんくんしにいく。においからの情報が猫にとってはとても重要であるらしい。
「嗅いでみる」の段階を経て、次に「触ってみる」に移行するのだが、この触り方が、前足でとりあえずちょんっと触ってみる、とかの可愛いやつじゃなく、「てめぇおいこら、動けんのかこら、やれんのかこら、お?おらおら、動いてみろや!」みたいなやり方。やっぱり未知のものとの遭遇は常に命の危機を孕んでいるので、こういう場面においても抜かりなくやる必要があるのだと思う。自分の優位を常に主張していくスタンス。
しかしヘラクレスにとって未知の存在ではなくなったにもかかわらず、未だにずっと「おいてめぇ、動いてみろや!」の接し方をされているのが掃除機である。あれに対する敵対心が一向になくならず、いつまでも「おいてめぇ」の関係から進展しない。いつか狩られると思っているのかもしれない。
とにかくでかいという以外はおもしろエピソードのない平凡なヘラクレスである。今もまさかネタにされているとは知らずにお気に入りの猫ベッド的なやつの上ですやすや寝ているのである。
ところで私の夢であり目標は「なにもしないこと」であるのだけど、ヘラクレスはこれを毎日達成していてえらいのである。なにもしないというのは単純に怠惰に過ごしたいというわけではなくなんかそういう、こう、いい感じにこう、なにもしないのである。ただ生きているというその、それである。ヘラクレスはただ生きて、その瞬間の気分によってなにかをしたりしなかったりして、人間よりもよっぽど生き物らしいと私は思ったりするのだ。
総括すると、猫はいいなぁに落ち着く。ほんと、猫はいいなぁ。
などとネタにされてるとも知らずにすやすや寝ているヘラクレスである。
猫の話をするだけ 古川 @Mckinney
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます