第一章
01.どうあったって……
豪奢な室内。出されたティーカップ。透明な容器の中の琥珀色の液体からはベリーの香り。次々とテーブルの上に並べられた生クリームたっぷりのケーキ、可愛い形のクッキー。色とりどりの果物、パステルカラーのマカロン。
(なんだっけ、こういうの、なんていうんだっけ。……ゆめカワ? メロい?)
確か、娘が携帯電話で友達と通話しながらそんなことを言っていたな。と思い返す。
意味が合っているかは正直分からない。次々と生み出される流行りの言葉に、ついていけないあたり、年齢を感じてたまに悲しくもなるが、まあ、それなりに長く生きてきたという証だ。と無理やり自分を納得させる。
「いかがなさいましたか?」
「……」
丁寧な口調、髪と同系色の深い青色の上着には金色の系で細やかに刺繍がほどこされている。瞳は赤い。目前に座った男性はやけにキラキラとして見えた。
(……うん。コスプレかな?)
まあ、誰がどういう格好をしようが自由だと思うし、カッチリとした服装は、実際にその男性によく似合っていた。
どうしてこの男性が目の前にいるのかが分からない。
とにかく、気づいたらわたしはこの部屋にいて、目の前にはこの無駄にキラキラした男性がいたのだ。
自分が気づかないうちに、ここに連れて来られた可能性はまずないだろう。そんなことをして目の前の男性に何かしらのメリットがあるとは思えないし。
では、わたし自身が気がつかないうちにそういう会場とか、異世界の騎士っぽい格好がコンセプトのカフェにでも紛れ込んだのだろうか? そうなると、ここに来た記憶がないぶん、目の前の男性より色々とヤバいのはわたしの方だ。
さらに、そのヤバさを際立たせているのが自分の今の格好だった。
朝の洗濯を干し終わり、少しだけ休もうと、リビングのソファーで横になっていたから、Tシャツにジャージというめちゃくちゃくちゃラフな服装だ。ミスマッチすぎるにもほどがある。この可愛らしい部屋と食べ物、そして目の前のイケメン男子と自分との落差が激しすぎる。
少しだけ言い訳をするならいつもこの格好なわけではない。……たまたま。そう。今日はたまたま。たまには、それでもいいかと思ったからこの格好なだけだ。
ちなみにそこからの記憶はない。
「あのー、すみません。帰っていいですか?……お代は後でお支払いしますので」
ニコニコとお茶とお菓子を進めて来る見た目20代くらいの男性にそう断りを入れる。
さっきポケットを探ってみたけどもちろんお財布なんて持っていない。
目の前に並べたてられた食べ物とか高そうだ。特にこの部屋が個室なあたり、一体いくらかかるのか正直聞くのが怖くもあったが、ここはもう、一度帰って財布を持ってきて、そして料金を支払って、今日のこの失態をさっさと忘れるしかない。
「ダメ、ですよ」
「……」
キラっと効果音がつきそうなほど爽やかに微笑まれたけど、これは、支払うまで逃がさないってやつなんだろう。
(まあ。そりゃそうか)
「すみません、今手持ちがなくて、必ずお支払いに来ますので」
本物か偽物か判断がつきにくい大量の情報が飛び交う昨今。人を信じられなくなってきているのもわかるが、ここはどうにかこの男性に信じてもらう意外にない。身分証明書になるようなものを持っていれば、そこもなんとかなったのかもしれないけど。そんなものも当然持ち合わせていない。
信じてください。との願いが届くように精一杯目で訴えていたら、それに気づいたらしい男性が少し驚いた表情をした後、すぐにまた微笑みを浮かべ声をあげた。
「おや。なにか勘違いをされていますか?」
「は?、勘違い…とは??」
「デザートはご自由に食べていただいたいて構わないのですよ」
「え? それって無料ってことですか?」
わたしの言葉に頷いた男性を見て、いやいや、それはないでしよ。と首を振る。
男性は、至極真面目な顔をしてわたしに言った。
「別の世界から召喚されてこられた
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