不或主婦と異世界の剣士~私、四十にして惑ってます。~(仮
あさぎ🐉
序章
00.だからどうしてそうなった。
「僕と
「……」
昼下がりの街道。行き交う人の数も多い。
そんな中、目の前の見目麗しい男性は、スンとした顔で私にそう言った。
突然のことに、今さっき受け取った昼食のベーグルを危うく落としかけた。気のせいか、ベーグルを手渡してくれた屋台のおじさんの視線が痛い。
私は、おじさんにお礼を言って、早足でその場を離れると、隣に並んだ男性を見返すことなく口を開いた。
「なんの冗談ですか?」
「冗談なんかじゃないけど」
「さっきの話、聞いてました? 私、結婚して主人もいるんですけど……」
男性は、こくりと頷く。
「それに、もうすぐ15歳になる子供もいるって言いましたよね?」
「だから?」
――いやいや、だから? じゃなくて、
「困ります」
「僕は困らない」
普通は、相手に旦那子供がいると分かれば引くと思う。だけど目の前のイケメンは、こともあろうか、私がその話をした後で夫婦になろうと言ってきた。
例えばそれが、好きでたまらない相手ならそれも頷ける。だけど、私と彼は会ってそれほどたっていない。それどころか、これまでそんな雰囲気など微塵も感じなかったのに……。
あれだろうか? もしかしてこの人は、人のものだとわかった途端にそれが欲しくなるという、ある種の病気のようなものをお持ちなのではないか? と疑ってしまう。
異世界に転移したとわかった時も困惑したけど、どうやら今の状況も、思った以上に私の頭は混乱しているらしい。
「そっちは困らなくてもこっちが困るんです!……それに、重婚は日本では認められてないし」
「認められてればいいのか?」
「そうゆうことじゃ――」
思わず立ち止まり、彼の方を向いて抗議しかけた私に、彼はこうも続けたのだ。
「そもそも、ここは日本でもない」
一瞬、言葉につまる。
「……だけど、私とあなたじゃ……釣り合いも、とれません」
見た目的にも、年齢的にも。とは声も出さず心で思う。
「僕はそうは思わない」
「……」
だめだ。
涼しい顔で、「他には?」とか言われて、こうなると、驚きや焦りを通り越して、呆れてしまう。
今の彼からは、"何を言ってもまったく通じない。"という感じがヒシヒシとする。
この人には、この世界に来てすぐ、危ないところを助けてもらった。ちょっと口は悪いけど、いい人だと思っていたのに……。
(実はこの人が一番やばい人だったのかもしれない……)
背中に伝う冷や汗を感じながら、そんなことをふと思った。
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