【三枚目:少年】
宿に到着すると、お礼を言って少年と別れた。
いくら十月半ばとはいえ、海辺の夜は少し肌寒い。
そういえば彼の家はここから近いのだろうか。
この時間帯に暗い夜道を子ども一人で帰してしまったことに不安を抱く。
(無事に帰宅できているといいけど……)
♦︎
「予約していた真堂です」
「真堂拓海 様ですね。こちらへどうぞ」
カウンターで鍵を受け取ると、「紅葉」と書かれた木札が掛けてある部屋に案内された。
そして部屋に入るなり宿の人が準備しておいてくれたであろう敷布団に倒れ込んだ。
今日一日ずっと座りっぱなしだったのだ。何もしないというのもさすがに疲れた。
(明日は何をしようか……)
持ってきた一眼レフの整備をしながら思わず笑みがこぼれる。
まるで遠足が楽しみな小学生のようだ。
風呂と食事を済ませるとシーツと布団の間に挟まった。
たまにはベットではなく畳の上に布団を敷くというのも悪くない。
見慣れない天井を眺めながら少年のことを思い出す。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい感じがしたのは気のせいだろうか。
(もう一度会えるかな……)
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
♦︎
「また顔が見られるなんて、思ってもなかったなぁ。でも——」
「俺のこと、やっぱり覚えてないか」
夜風に当たりながら、どこか寂しげな笑顔を見せる。
この辺りには民家や街灯も少なく、空には無数の星が光っているのが見える。その星空の中に浮かんでいる月が、水面にぼんやりと反射しては揺らめいていた。
きっと、拓海がこの景色を見ていたら間違いなくシャッターを切ったことだろう。
子どものようにはしゃいでいる姿が目に浮かぶ。
「早く明日にならないかな」
独り言のようにそう呟くと、落ちてきた横髪を耳にかけた。
少し離れたところにある灯台の光は、相変わらず一定のペースを保って回っている。
もう何年も前からずっと——。
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