【二枚目:迷子】
電車から降りると、そこは看板が一つ立てられているだけのホームだった。
どうやらここは終着駅だったらしい。
それならあの時、少し眠っていてもよかったのではないかと後悔したが、もう遅い。
良い写真が撮れたんだからいいじゃないかと自分に言い聞かせると、両手を空に突き上げて背伸びをした。
胸いっぱいに空気を吸い込むと、ツンとした潮風が鼻を通り抜ける——と同時に、一人の少年が視界に入った。
年齢は中学生……いや、高校生くらいだろうか。
まっすぐな黒髪が風になびいている。シャツの袖から伸びた腕は白くて細長く、簡単に折れてしまいそうなほどだった。
「ここの町の子かな?」と遠目に見ながら、予約しておいた宿の場所を調べようとスマホを取り出した。
しかし、液晶画面には「圏外」という文字が映し出されている。ここには電波が届いていないらしい。
なんという田舎……。
スマホが使えないとなると、現代人にはどうすることもできない。日頃から便利な道具に頼りすぎているせいだろうか。
どうしたものかと辺りを見回すと、先ほどの少年がこちらに向かって歩いてきていた。
「お兄さんもしかして迷子?」
まさかこの歳にもなって迷子と言われる日がくるとは思ってもいなかった。
「否定はできないな」
苦笑いを浮かべながらそう答えると、少年はクスッと笑った。
「どこに行きたいの? 俺が案内してあげるよ」
太陽は水平線へと消えていったが、辺りにはまだ、微かに明るさが残っていた。
見回すかぎり、近くにほかの住民の姿はない。この少年に頼る以外の選択肢はなさそうだ。
宿の名前は確か——。思い出すように呟く。
少年は「ついてきて」と一言だけ言うと、背中を向けて歩き出した。
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