海辺の不思議な少年と

ヤダカ ユウ

『again』 メインストーリー

【一枚目:一眼レフ】

 いくつかの電車を乗り継ぎ、もう何時間経っただろうか。

 つり輪が必要だった箱の中も、空が茜色になるにつれて空っぽになっていった。

 貸切り状態となった車両は静まり返っていて、一人だけ世界に取り残されたような気分にもなった。


 タタン——。タタン——。という音だけが耳に届き、その心地よいリズムに揺られながら少しずつ目蓋が落ちていくのがわかる。

 しかし、あいにく今回は一人旅だ。今考えるのを放棄してしまっては、目的地までに起きられる自信がない。

 仕方なく上着のポケットに手を突っ込むと、今朝コンビニで買っておいたガムの封を開けて口に放り込んだ。



 しばらく続いた暗闇を抜けると、所狭しと並ぶ背の高い建物は見えなくなった。

 かわりに、目の前には沈みかかった日の光を反射しながら輝く、一面空の色に染まった海が広がった。普段は滅多に見ることができない幻想的な光景。

 おもむろにリュックからカメラを取り出すとシャッターを切った。

 この日のために新調したレンズだ。なかなかに良く撮れている。少しばかり奮発してしまったが問題ないだろう。


 そんなことをしているうちに、先ほどまでの心地よい揺れがだんだんと遅くなっていく。


 やがて、その揺れは完全に止まり、背中側のドアが音を立てて開いた。

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