【四枚目:写真】
カーテンの隙間から差し込んだ温かい日差しが拓海の顔を照らしていた。
その眩しさに目を覚ますと、そこにはいつもと違う景色が広がっていた。
(そういえば写真撮りに来たんだった……)
まだはっきりとしない意識のなかゆっくり立ち上がると、おぼつかない足取りで洗面台へと向かった。
鏡で自分の寝癖を確認しながら、上にあげた前髪をピンで止める。
そして銀色のハンドルをひねると、蛇口から勢いよく水が溢れ出してきた。
想像していたより強い水圧に驚きながらも慌てて水を弱めたが、どうやらTシャツにも水滴が飛び散ってしまったようだ。
「これくらいならすぐ乾くだろう」と特に気にすることもなく顔を洗ったが、タオルがリュックの中だということに気がつきしょうがなくTシャツで拭った。しかし、さすがにこれは自然に乾くまでに時間がかかってしまう。
濡れたTシャツを脱ぐとハンガーに掛け、代わりに新しいものを取り出した。
着替えはそんなに多くないのだが、ここには共同の洗濯機があるため大丈夫だろう。昨晩、浴場から出た脱衣所の片隅に貼り紙があるのを見つけたのだ。
時計を見ると、現在の時刻は十時半をまわっていた。
拓海は遅めの朝食、いや、早めの昼食を食べ終えると、着替えたばかりのTシャツの上から薄手のパーカーを羽織り、部屋をあとにした。
♦︎
宿から少し歩いたところにある堤防まで来ると、薄らと霧がかかっている海を眺めた。
(上着を羽織ってきて正解だったな)
少々肌寒さを感じながらも、少しばかり長めの髪を後方で束ねた。
東から昇ってきた太陽は水面に反射して揺れている。
辺りを見渡したあと、首から下げていたカメラを構えると、一枚試し撮りをしてみた。ファインダー越しの景色はいつもと違って見えて、まるで別の世界に来てしまったようだった。
すると突然、拓海の視界は真っ黒に染まった。驚いてカメラを遠ざけようとすると、何かにぶつかった音と衝撃が伝わってきた。
——その直後。
「いっ——!」
という声にならない叫び声。
「あっ、あの、すみませんっ!」
とっさに謝ると、近くに誰かがうずくまっているのが見える。それはどこか見覚えがあり、つい最近聞いたばかりの声の持ち主。
「君は確か、昨日の——」
「久しぶりだね、迷子のお兄さん」
そこには、赤くなった額を両手で抑えながらはにかむ少年がいた。
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