4、はじめましてフィンランド

 フィンランドに到着したとき、とても静かな国だな、と思った。


 そしてなんだかいい香り。


 爽やかというか、澄んでいるというか洗い立てのお布団のような。


 空港から市内までは簡単で行きやすいのだと、そこだけは最初にガイドブックやネット上で目にしていた。


 バスか地下鉄かタクシーなど、選択肢は豊富である。


 いつも海外旅行もツアーにしていて、到着したらガイドさんが迎えに来てくれる旅行を選んでいた。


 友達の中には人と行動するのが嫌だから個人的に移動したい、という子もいたけれどわたしは人任せで全然問題がないタイプなのでいつの間にかあちこちつれて行ってくれるツアーがとてもお気に入りだった。


 でも、今回は違う。


 今回はすべて自由行動。


 待っていてもお迎えなんて来てくれない。


 かつてわたしが選ぶことのなかった『自由行動』なのである。


 一番簡単だと最初から決めていた空港バスに乗ることにした。


 当時、六・三ユーロ(だいたい千円くらい)で空港からヘルシンキ市内まで乗せて行ってくれるバスである。


 空港を出たとき、思ったよりもひんやりした風がまとわりついてくる。


 え? まだ秋なのに?


 などと思ったけど、そういえばフィンランドのイメージのひとつに『寒そうな国』というのもあったということを思い出した。


 ぶるっと震えたけど、ちょうど目の前に乗りたかった空港バスが止まったため、なんとなくほっとした。


 運転手のおじさんがひとりでスーツケースをバスの下に積みながら乗客を待っていた。


 わたしの他に日本人は二組だった。


 飛行機の中にはたくさんの日本人がいたはずなのにずいぶん減ってしまっていた。


 みんな、今までのわたしみたいに乗継してどこか別の国へ飛んで行ってしまったのかもしれない。


 ひとりはわたしと同じひとり旅の装いの男の子で、もう一組は穏やかそうな老夫婦と美しいスタイルの女性だった。


 その女性は長年ヘルシンキに住むガイドさんらしい。


 今回の旅路は誰もわたしを知らない、ことばが全く聞き取れない国へ行ってみたい。


 そう思っていただけに、どこの国に行っても日本語は聞こえるものだなとなんとなくおかしくなったし、ちょっとだけ安心した。


 気付いたらバスの運転手さんと前の旅行客はなにやら言い合っているのが目に入った。


 ガイドの女性がその間を利用して巧みな話術でフィンランドの豆知識を丁寧に説明してくれたのでこっそり聞きながら待つことにした。おかげで不安はあったけど、まったく苦ではなかった。


 ヨーロッパというと、結構時間にゆったりしたイメージで、乗り物は定刻に来ないという印象があるけど、フィンランドは意外と(というかほとんど)定刻だった。


 言い争いを繰り返したバスの運転手さんが突然諦めた様子で会話を切り上げ、列を作るわたしたちに早く乗れ!というようなジェスチャーをした。


 あわててスーツケースを預けると勢いよく投げられ、おいおい……となったものの、運転手さんはできるだけ早く出発したかったのかあわてて乗車するように促してきた。


 お金は前払いだったはずなのに、それもいいから早く乗れと勢いよくバスに詰めこまれ、なかなか慌ただしく、わたしのフィンランドの旅が始まったのだった。

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