9、いつからなくなったのか冒険心

 昔は良くも悪くも自信にあふれていた。


 だから怖いものはなかった。


  そんなわたしも社会人生活での挫折の繰り返しと逃げぐせのついた生活から、いつの間にか冒険心や挑戦する心を失っていた。


 遠い異国でのひとり旅なのでそのくらいの警戒心があったくらいの方がいいのかもしれないけど、ずいぶんな警戒体制でいざヘルシンキの街へと出発した。


 着ることはないだろうとお守り代わりに持ってきた冬物のもこもこのコートに着替えて。(重いスーツケースを引きずったかいがありました)


 トラムという街中を走っている路面は電車が怖かった。


 一度乗ってしまえば怖いどころか一日乗車券さえ持っていれば市内のあちこちにお出かけでき、これがまた便利で驚かされるのだけど、ヘルシンキ市内の路上をあちらからもちこちらからも走ってくるトラムになんとなく恐怖を覚えた。


 どうやってのるのかもよくわからないし、行先もわからない。


 だから最初はトラムに乗るという選択肢がなかった。


 今のわたしからしたら歩くこともいろんな景色を堪能できるので素敵だけど、トラムに乗った方があっという間にいろんなところに行けるし、一日乗車券を購入すれば使用してから二十四時間以内(1~7日の範囲で連日購入することもできる)はあちこち移動をすることができておすすめだった。


 しかもトラムは朝の六時ごろから夜中の二時くらいまで動いている。


 本数の多いものだと十分に一本はやってくるし、ヘルシンキがこんなにも便利で移動のしやすい場所だと知らなかったため驚いた。


 そして、ますますこの国の魅力にとりつかれていくきっかけとなるのはまた別のお話。


 ともあれ、最初は勇気が出せず、挑戦することもなかった。歩くこと一択だった。


 日本を朝から出発し、七時間の時差を超え、午後二時くらいにヘルシンキへ到着する。そしてホテルへは三時頃たどり着く。


 これが時間が有効活用できると言われたヘルシンキの良さのひとつなのかと再確認した。


 わたしの旅路は三泊五日。


 一日目は到着後の三時以降と二日目と三日目を自由行動に使うことが叶う。


 そして、四日目もお昼まで遊び回って夕方になるころ空港に向かうことになる。


 合計四日弱は(一日目と四日目は移動が伴うけど)自由に行動ができる。


 これぞ『自由行動!』なのである。


 1日目の夕方からはふらっと近辺を下見しておくと良いとガイドブックにあった。


 この旅路のビックイベントは丸一日使用できる中の二日間に持ってくる必要がある!


 そう確信した。


 行きたいところはいろいろあった。


 世界遺産の島『スオメンリンナ島』、母や妹からお願いされた『マリメッコ本社』と『マリメッコのアウトレット』、そして『サウナ』と『かもめ食堂』。


 なんとなく最初にガイドブックを眺めて決めたところだ。


 出国前に事前学習のつもりも兼ねて、本を読む時間がなかったので映画の『かもめ食堂』を観た。


 とても穏やかな映画で、日本人の女性がフィンランドで日本食の飲食店を経営し、仲間と出会い、フィンランドの人たちと少しずつ交流していく上で成長していく……そんなお話だったけど、何度も何度も寝落ちしてしまって結末を見損ねてしまうほど心地よい空間だった。(もちろん今はすべて観ています)


 うん、まさにあの映画の通りの国だな、と新しい一歩を踏み出した。

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