8、アーサーホテルのエレベーター

 予想よりも近い位置にホテルはあった。


 無駄に遠回りをしたせいで疲れ切っていたわたしは写真で見た建物を目にした時は飛び上がるほど嬉しかったものだ。


 過ぎ行く道の標識はほとんどフィンランド語とスウェーデン語で、意味が分からないあまり実はこっそりこのままホテルは見つからないのではないかと心が折れそうになった。


 ようやく見つけて飛びこんだ滞在先『アーサーホテル』。


 次は、フロントでことばが通じなかったどうしましょう……などと不安は募っていく。


 もちろんフロントの女の子は満面の笑みで『フィンランドへようこそ』と英語で笑ってくれた。その安心感はここで一言で書き表せられないほど。


 その後は滞在のための簡単な書類に記入をして、鍵だけ渡されて自分の部屋に行くことになった。


 七階だという。エレベーターで行くものだと安心しきってエレベーターを探した。


「な、ない!!!」


 またまた重いスーツケースを引っ張り、あちこちぐるぐる回って、エレベーターを探すわたしの姿は滑稽だったと思う。


 え? まさか階段で行けって言ってるの?


 うそぉ…と業務用倉庫かと思われる三つの扉の前で何度目かになるため息をついて途方に暮れた。


 そんな時、その業務用倉庫だと思っていた扉の向こうから、なにか音が聞こえた。そして、聞き慣れたちーん!という音。


 ま、まさか…と続く光景に目を疑った。


 それもそのはず、その倉庫だと思っていた扉の取っ手を引くともう一つのドアがウィーンと開き、その中にエレベーターがあった。


 なんというか、扉を開けるとエレベーターがあるという印象だ。(エレベーターが別の階にあるときはドアは開かない)


 こんなエレベーターは見たことがなく、すごく面白くて何度かひとりのときに乗り込んで動画を撮影したものである。


 それだけわたしはこのエレベーターが気に入ったし、次にまたこのホテルに来たら誰かに見せたい、などと思ったほどだった。


 部屋はひとり用でとてもこじんまりしたものだったけど、シンプルなデザインでワンポイントに色鮮やかな絵画が飾られていてとてもその内装が気に入った。


 ほんの数日だけど、滞在する場所にはとてもいい!そう思った。

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