7、ヘルシンキにやってきた

 三十分ほどでヘルシンキにある中央駅に到着した。


 2メートル近くある大きな人たちの中でちんまりミニマムサイズのわたし(日本では結構大きいのだけど)はちまっと初のヘルシンキ中央駅に足を踏み入れる。


 目に見える景色すべてがもちろんながら新しい世界が広がっていて、ぐるっとあたりを見渡し、わくわくする。


 スーツケースを受け取り、歩いて5分ちょっとの『アーサーホテル』まで向かうことになる。


 空港で大苦戦した重いスーツケースは変わらることなくずしりと重く、それに加えてひんやりする空気もまざって指がちぎれてしまいそうだった。


 しかも道はまっすぐなアスファルトではなく、レンガが埋め込まれたでこぼこの道なのである。


 スーツケースを少し運ぶたびにガクンと揺れたり、ガン!と何かにはまるような音がしてスーツケースは飛び跳ね、気が気じゃなかった。


 行く先がわからず地図を見たかったけど、ガイドブック片手に歩く余裕もなく、なおかつ携帯も日本のものをそのまま持ってきたためwifiがない限りネットを使うこともできず(ネット環境はとても良いことをあとで知る)近くにいたおばあさんに道を聞くことになった。


 『アーサーホテル』はどちらかというと中央駅というよりもその隣にある大学駅の方が近かったため、地下鉄で行く方が早かったのだけど、実際には歩ける距離なので『まぁいっか!』と安易にも歩くことにした。


 だからその大学駅さえわかればどの辺にあるかわかるだろうとなんとなく思った。


『すみません、大学駅はどちらですか?』


 わたしの問いに、おばあさんはとても申し訳なさそうな顔をして、なにかを口にした。


(あっ!)


 フィンランド語しかわからないと言ったんだ。なんとなくそう思った。


 日本ではほとんど見かけない明るい柄物のワンピースに手編みのマフラーとぼうしをかぶった見るからにお洒落なおばあさん。


 とても申し訳なさそうに何かを何度も何度も繰り返していて、わたしも唯一覚えてきた『キートス(ありがとう)』とだけ伝え、頭をさげた。


 頭を下げることは海外では敬意を示しているように見えるかはわからない。


 でも、気持ちだけはわかってほしかった。


 聞き取れなくてごめんなさい。


 ここは、わたしの望んだ『ことばが聞き取れない国』なのだと実感した。(といっても、普通にお店や若者には英語で話せば英語で返してくれるので生活には困らない有難い国だった)


 致し方なくガイドブックを取り出し、ああでもないこうでもないと歩き回って、目的地のホテルを目指した。


 どうして坂道なのにこの歩きにくいレンガ造りの道なのだろうとぼやきたくなったけど、そのあと落ち着いて見たらなんと美しい外観で、情緒あふれる道なのだろうと心満たされたのはここだけのお話。


 腕が限界だと思うまでスーツケースを引っ張り回し、落ちたシナモンロールをつつくカモメを横目に、思わずカメラを出した観光客はこのわたしです。


 本当にカモメがいて、しかもシナモンロールを食べてるんだ、と笑ってしまったらなんだか元気が出た。

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