第二十五話 猟兵を探して

 翌日、夕暮れ時。


 俺、ガラテヤ様、マーズさんは昼間のうちにギルドへ申請を出して馬車を借り、アリーヴァーヴァ平原東部へと向かう。


 日が沈む頃に調査対象の地域へ着くように動いたのは、皆が寝静まる夜は警備が手薄であろうという単純な理由である。


 実際に俺達がやるべきことは猟兵達の闇討ちでは無く、「彼らの拠点を調査する」という依頼なだけあって、本当に調査するだけなのだ。


 故に拠点の場所さえ知ることができれば良い訳であり、猟兵達との交戦は必要では無く、となれば、調査をする時間は環境が隠密性を高めてくれる夜に限る、ということになるのだ。


「……さ、この辺り一帯の広い地域を探せとのことだったけれど……マーズ。見当はついているのかしら?」


「ああ。候補に挙げられる場所は三つだ。一つ目は『ジャルナ空洞』、二つ目は『ファヴァーダ林道』、三つ目は『カルテューナ錬金術研究所跡』。これらは全て、人が隠れ住むことができるであろう場所だ。……というより、このだだっ広い平原で、ある程度まとまった人が隠れられそうな場所があるとすれば、この三つくらいだからな」


「へぇ……。よくわからないけど、その三ヶ所を探せばいいってことか」


「そういうことだ。さあ、どこから行こうか?」


「マーズが言った順番でいいんじゃないかしら?」


「分かった。じゃあ、ジャルナ空洞から行こうか」


「「はーい」」


「……何だ、その妙な反応は」


「遠足みたいだなーと思って」


「懐かしいわね。ジィン?」


「ええ、とても」


「エン……ソク?」


「マーズも、ちょいちょいこの辺に来て狩りしてたみたいな話してたでしょ?そういうのだよ」


「へー……『エンソク』、か。悪くない響きだな」


「ええ、いいものよ。勿論、今回もね」


 馬車から降りた俺達は、さらに東へ望む崖へと歩き始める。


 マーズさんが先導し、俺達がその後を追うように先へ。


 例の空洞は崖の下にあるのだろう。


 少しずつ崖へ近づくにつれて、岩肌に一点の闇が見えてくる。


「あそこが入り口?」


「ああ。あそこは、父上が狩った獣を解体バラすのに使っていた洞窟だ。……懐かしいな」


「どういう造りだったかは、覚えてる?」


「勿論。といっても、ほぼ奥まで一本道の洞窟だから、造りも何も無いのだがな」


「へぇ。……でも、そんなところに猟兵が拠点を作るかしら?」


「あくまで可能性の話だ。候補には挙がるくらい奥行きはあるからな」


 気づけば、洞窟はすぐ目の前。


 俺達は横に並び、それぞれ持参した武器を構えてゆっくりと進む。


 今回は取り回しと身軽さを重視し、交戦しなかった際のことも考えて、私服にファルシオン一本で来た。


 盾や弓、鎧などには、自室のウォークインクローゼットを温めてもらっている。


 マーズさんもハーフプレートメイルは着ずに、大剣だけを持って来ていた。

 ガラテヤ様に至っては私服に拳二つ、つまりはただの町娘スタイルである。


「やぁッ!」


 横に並びつつ、やはり少し前を行くマーズさんは、ところどころ俺達に気づいて暴れ出すコウモリのような魔物……おそらく『ヴァン・バット』だろう。


「大丈夫、マーズ?」


「正直、怖い」


「そうよね」


「だが、大丈夫だ。対魔物の訓練なら、無様を晒したあの日からも続けているからな。あと……コイツは普通のコウモリっぽいのと、そこまで大きく無かったのと……まあ、そういう理由でな。ゴブリンとかケウキとか、そういうのなんかよりは、幾分かマシだからな」


 マーズさんは剣に付着した血を払い、剣を構え直してさらに先へ。


 しかし、すぐに最奥まで着いてしまったようで。


「ここで終わりみたいだな」


「とりあえず、ここは候補地から外れたわね」


「ジャルナ空洞は除外……っと。よし、あと二ヶ所か」


「そうだな。さあ、頑張ろう。二人とも」


 どうやら俺達は、「ただコウモリみたいな魔物を殺しただけの人達」でしかなかったようである。


「そうね。まだまだ先は長そうだけれど」


「ガラテヤ様、マーズさん。次……どっち行きます?」


「次は……カルテューナ錬金術研究所にしよう」


「「ふぁーい」」


「さっきから緩くないか!?ジィンはともかく、ガラテヤまで!ベルメリア領ってそういう感じなのか!?」


「いいえ?全く?」


「俺達くらいですよね?」


「そうね」


「……二人とも、兄妹みたいだな。こんなに息ピッタリな主人と騎士のコンビは、そういない」


 やはりマーズさん、鋭い。


「さ、次行きましょ」


「そ、そうですね」


「何だ、二人とも待て、私を置いていくな、ちょっと!?」


 俺とガラテヤ様は、そんな鋭いマーズさんを置いて外へ。


 後を追うマーズさんは、俺達が「調子に乗り過ぎた、話を逸らそう」と思って走り出したとはつゆ知らず。


 大剣を納め、俺達の後を走って追うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る