第24話 格上ギルドをコラボ配信でフルボッコしてみた

 さて。

 両ギルド合同攻略の動画は、結局『つるが倶楽部』のチャンネル側の企画として、後日アップされることとなった。

 ならば『筋肉三倍段』のチャンネルでは、どういった形でコラボ動画を出そうかという話になったが──



「すぐ近くに、同じ管理者が運営しているゴルフ場があるんですよね? まだ日没までお時間ありますし、普通に『ゴルフ対決』やりませんか?」


 誠二のこの提案があっさり受け入れられる。


 一見、ゴルフ経験が豊富だった誠二の独壇場かに思えたが、そもそも彼がこのような提案を持ちかけた狙いは、勝負の有利不利とはもっと別にある。

 スポーツ含めた肉体労働を嫌う真凜に代わって、攻略中はずっと裏方に徹していた麗奈を、動画に出演させるためだったのだ。


(ま、クイーンばかりの絵面が続いてたし、清涼剤にもなるんじゃないかな)


 とか、各人に失礼なことを考えていたのはここだけの話。


 そして誠二の目論見は、まんまと『筋肉三倍段』リスナーたちの需要にハマる。

 後日、編集されたコラボ配信動画がチャンネル内で公開されるなり、コメント欄は狂喜乱舞となっていた。



:レナさんの脇いいいいいいいっ!

:ナイスショット!

:うーむ有能

:約束された神動画

:セージ……こいつ「分かって」いやがる……!

:マリマリが映ってない、やり直し

:こっちはレナさんを崇拝するチャンネルだ。マリマリ推しは森に帰って、どうぞ

:つるが倶楽部の方で上がってた動画もめちゃおもろかったけどな

:脱サラ攻略者、やっぱり普通に強いのでは……?



 ゴルフの上手下手とか、ギルドパーティの勝ち負けとか、そういったギルドや攻略者同士のマウント合戦など、リスナーたちの性癖の前には瑣末ごとでしかない。

 もちろん、両ギルドにとっても。




♢♢♢




「おう、お疲れさ〜ん」


 ゴルフ場構内のレストランにて。


「御託はもういらねえ。同じダンジョンで汗を流したもん同士、とにかく乾杯といこうや!」


 晴好の音頭で打ち上げが行われ、屈強な男たちがビールジョッキを高々と掲げた。

 なみなみと注がれたビールのきめ細やかな泡に、誠二も遠慮なくがぶりつく。


「ぷっは〜☆ 筋繊維が喜んでるう〜☆」

「超美味いです〜! でも、攻略者ってこんな頻繁にお酒飲んで大丈夫ですかね? アルコールと筋トレの相性あんまり良くないってネットに書いてありました」

「いやネットかよ。そういうのこそ麗奈に聞けよ」


 真凜にばしとチョップを入れられる誠二。

 ジョッキの中身を一気に飲み干したイチローが、誠二の苦言を意に介している様子はない。


「おカタいわねえセージくん。攻略者が酒・金・オトコを愛でずして、なにを仕事の肴にするっていうの〜? タンパク質さえしっかり取ればモーマンタイだわ〜☆」


 ──オンナじゃなくてオトコなんだ。さすがドラァグ・マッチョ・クイーン。

 事実、テーブルには次々と料理が運ばれてきて、とても並みの人間では食べきれそうにない量である。

 そんなタンパク質の塊を、『北島美容室』もアキラも、そして晴好や麗奈も怯まず口いっぱいに頬張っていくのだ。


(皆さん、すんごい食欲だ……胃のサイズに関しちゃ、俺もまだまだ真凜さんクラスだよな)


 誠二がちらと真凜を盗み見れば、真凜は隣りで、日本酒を何度もおちょこへ自分で注いではぐびぐびと飲み耽っている。

 小皿の上には手羽先が乗っているのみで、誠二はいらぬ気を利かせたくなる。


「あの、真凜さん? 俺がぎましょうか」


 酒瓶を握っているほうの手を優しく掴む。


「それに、真凜さんはお酒ばかりじゃなくもう少し食事に手を付けたほうが」

「んだてめー? あたしの飲み方にケチつけんの?」


 ──ガラ悪いな!

 女子中学生か女子高生みたいなナリしてるのに、飲み方が仕事帰りのアルコールにしか生き甲斐を見出せない中年リーマンみたいなんだよ!



「おうこら姉ちゃん。後輩の厚意を踏みにじっちゃあいけねえよ」


 晴好がずいと二人の間に割り入ってきた。自分でもおちょこを持ってくる。


「誠二、俺にもひとつ頼む」

「え、あっはい!」


 誠二は促されるままに日本酒をそそぐ。

 流れるような慣れた所作に、晴好も満足げだ。椅子の上で足を組み、ぐいとおちょこをあおる。


「本日は貴重な機会をいただきまして、本当にありがとうございました!」

「ははっ、おカタいなあ。どうってこたあねえよ。それよりお前さん、やあっぱダンジョンなんつうカタギから離れた地下とは、縁のなさそうな育ちしてやがんなあ」

「いえいえ、自分はそこまで大層な育ちはしてません。今は皆さんに見劣りしないような筋肉を育てるので手一杯です」

「はっははあ! そいつぁ頼もしい新入りだ。無理に馴染まなくて良いんだよ、こんなもん」


 晴好はバシィ! と誠二の背中を叩く。真凜の渾身のチョップよりもうんと重みがある。

 老人マスターでありながら、その腕力からも業界に長く椅子を下ろしている者としての貫禄を誠二は感じた。


「あんたみたいな骨のある奴がギルドに入ってくれりゃ、麗奈ちゃんも安心してトレーニングできるってもんだ。なあ麗奈ちゃん?」


 視線を向けられた麗奈だったが、どうやら話を聞いていなかったらしい。

 酔いを回してぶっ倒れてしまった真凜の介抱をしているようだ。弱いのに酒好きなのか、と誠二が呆れる暇もなく。


「で? お前さん、結局なにもんよ」


 急に晴好が声色を深めた。誠二はびくりとして背筋を直す。


「麗奈ちゃんか、マリリンロンマーのダチか? 大学で知り合ったとか」

「いえ、自分は元々ただのしがないサラリーマンでして。ジムギルドで厄介になっているのも、ええと、なんて説明すれば……言ってしまえば成り行きで……」

「はあん? 成り行きか、成り行きね。ま、大概の若いもんはどいつもこいつも似たり寄ったりな理由を並べてくるが」


 肩へ寄り掛かるように腕を回す晴好。

 渡部店長が飲みの席で、新人社員へご高説垂れるときの仕草にそっくりで、誠二は思わず身を固くしてしまった。

 ──こういう流れで出てくる話は、決まって面白くないんだよなあ……。



「わしや、雅人……特に麗奈ちゃんは、行き当たりばったりで商売務まるような育ちをしちゃいなくてね。配信とかいう今時のエンタメの演出だけじゃなく、本気で業界のてっぺん取る気があるなら、お前さんも、そんな風に周りの顔立てたりお膳立てしたりじゃなくってな。もーちっとばかり、欲を出してかなきゃーなるめえよ」

「はあ。……もしかして〈U.D.D.〉のお話ですか? 正直自分にはまだ早いお話ですよ。次のシーズンで出場するのはアキラさんですし、今日だって俺は、アキラさんに花持たせてもらったみたいな感じで」

「なぁにを寝ぼけたことほざきやがる?」


 あくまでも謙遜を貫かんとする、誠二の態度が晴好にはどうもお気に召さなかったらしい。


「他人事かいな、ええ? ダンジョン潜るのに早いも遅いもありゃしないんだよ」


 果たしてどんな助言が飛び出すのか。

 固唾を飲んだ誠二へ、晴好はぐっと腕の力を強める。



「雅人に聞いたぜ、あんちゃん。──、なんて腑抜けたことを言ってちゃあ、ギルドも一生救えねえぞ」











♢♢♢


作者コメント:

 昨夜、チンチロ武道館に行ってきました。アドレナリンがドッバドバ!

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