第22話 攻略者だけでなくギルドにもランクがあるらしいので

『カントリームサシ』がモンスターの見本市とするなら、誠二は接待ゴルフの見本市であった。

 真凛の指示に合わせ、ボールの重さに慣れないながらも次々空へ飛ばしていく。


 ドローン探知器が掘り当てたモンスター乱獲スポット、その中心部へボールをビタ止め。

 爪が高値で売れるというバンカーモグラの住処、バンカーと芝の境目へ、リカバリーできる程度の絶妙な位置でビタ止め。


「キモ……なんで転がすんじゃなくて、全部ビタ止め?」


 不気味がる真凛へ、誠二が真顔で答える。


「ときどき池ポチャさせると場が和むんですよ。上司の機嫌も良くなる」

「ガチでキモ……池は別エリアだからまだ手ぇ付けんなよ」

「いやはや、どのくらい力を入れれば芝を転がっていくのか勝手がよくわからず……だから、ひとまずは加減の入れ方を覚えるところから始めようと思いまして」

「いやいやだから、あたしが言ってんのは……まーいいわ。お前はそのままアキラが捕まえやすい位置にボール飛ばしな」


 ゴルフカートの天井には、モンスターのいっぱい入ったネットが積まれている。

 痺れ薬が効いて動きが鈍っているとはいえ、網の中で数多のモンスターがひしめく様子は圧巻だ。


(結局はアキラさん、素手でモンスターふんづかまえてるんだよなあ……すごい腕力だ……)


 これなら勝てる――誠二がそう慢心した時。




「30分経過しました!」


 麗奈がゴルフカートで呼びかける。

 時を同じくして、相手パーティの途中経過も、晴好のスマホからも送られてきたらしい。

 その報告に、誠二は仰天した。


「ただいまの捕獲数、『筋肉三倍段』は合計37体! そして『北島美容室』は――合計65体です!」

「負けてる!? この量で!?」


 信じがたい数字に、誠二はクラブを振りかぶる手を途中で止めてしまう。

 茂みに潜んでいたアキラも、すかさずゴルフカートのところへ引き返してきた。


「ふむ、さっすがAランクのチームワーク。手際の良さじゃ、あっちの方が数枚上手ってわけね」

「物理的に可能なんですか!? いったいどんなプロセスで……」

「これを見て、肉だるまども」


 真凛がタブレットを2人に掲げる。

 画面に映し出されていたのは、アウトコースで今も狩猟に励む『北島美容室』の姿。


「ピーチちゃんの子機ドローンが偵察をしてくれていたらしいわ」

「なんて有能なんだピーチちゃん……そりゃ人間がAIに文明乗っ取られる日も遠くないですよ……いや、そんなことより!」


 誠二はその光景に目を見張る。


(騎馬……? いや、これは……!)




 ジローとサブローが肩を組み、乗り込んだイチローが両手で抱えていたのは、掃除機の形をしたブラックホール――アイテム『吸収合併クリーナー』。


 ばら撒かれたエサにつられ、のこのこと地上へ顔を出してきたモンスターたちが、みるみるうちに吸い込まれていく。

 芝を駆け回る勢いのままに、圧倒的な吸収力を見せつけるアイテム。

 さらには、アイテムの凄まじい力に負けないイチローの包容力、そして、足場を決して崩さないジローとサブローの連携力が、それぞれ輝きを放っていた。




〔これで北陸に続いて、武蔵野の山あり谷ありグリーンカーペットもアタシたちが吸収合併よ〜! ねっ、サブロー?〕


〔そうねジロー。ギルドが近い未来に東京で幅利かせるためにも、今のうち、には道を開けておいてもらわなくっちゃ。そのためにも――〕


〔セージ。やはり彼こそが今年のダークホース。総帥の見立て通り、あの男前な営業マンばっかりは油断ならないわ☆ アキラはアタシたちの美貌とマッスルにかかっちゃ、取るに足らないプリンセス未満だけど☆〕


〔ええそうねイチロー。アナタのサイドチェストは今日も決まってたわよ〕


〔次の〈U.D.D.〉ではアキラに出場枠を譲るみたいだけど、表舞台へ上がってくるのは……いいえ、深淵へ潜り込んでくるのは時間の問題。今のうちに若い芽は摘んでおかないと〕


〔そうねアンタたち☆ このままじゃ済まさないわ『筋肉三倍段』っ! アタシたち『北島美容室』にも攻略の、そして配信の筋書きシナリオってものがあるのよ〜☆〕





♢♢♢




 なんて生々しく、大人気ないプロレストークならぬダンジョントークだろう。

 子機ドローンの映像が切れるなり、真凜はバン! とタブレットの表面をぶっ叩いた。


「クソが! おめーらのギルドも万年Bランのくせに!」


 声を荒げ、苛立ちを隠さない。

 麗奈が画面外にて「マリマリ、配信映え配信映え……!」と小声で落ち着かせようとしても、あまり意味をなさなかった。


「だぁから福井まだ新幹線通ってねえって! お前らが富山石川に吸収合併されんのが先っしょ? それか関西に乗っ取られるのがオチだわ!」

「え……ランク? 攻略者だけじゃなく、ギルドにもランクがあったんですか?」


 地域ディスには耳を貸さない誠二である。この辺の暴言は編集で丸々カットしてもらおう。

 誠二が麗奈へ視線を移すと、麗奈はハンドルを汗がにじむほど握り込み、うつむいて、わかりやすくしゅんとした子犬の表情をしている。


「ごめんなさい……わたしが力足らずなばっかりに……」

「麗奈が謝ることじゃない! 新参がランク低いってのは別になんもおかしくないでしょ?」

「うぅ……でも……なんやかんやギルドを作って1年経ってるんだよ、マリマリ……」

「他のギルド連中やダンジョン協会が余計な真似ばっかするからじゃん。麗奈には絶対、ジムギルドをAランクにまで成り上がらせるっていう目標を達成してほしいんだ。それを、あいつら……」


 両手でタブレットを掴む、真凛の言葉には力も心も籠もっている。


「絶対許さない。麗奈の夢を踏みにじる奴ら、全員。特に、『東西南北』のやり方が絶対だと思ってる、頭も筋肉も凝り固まってた老害連中は。麗奈のマッスルと笑顔を曇らせるようなクズは、あたしが全員晒し上げて叩き台にして徹底的にボコしてやる……!」

「マリマリさん……」

「だからこそ、この勝負は負けらんないんだ。このまま連中にナメられたままじゃあいられないんだよ……!」


 静かな熱意をたぎらせる真凜。

 斜に構えた態度が目立つ彼女にも、こういう泥臭い一面があったのかと誠二が拍子抜けしている暇もない。


「怒りに身を任せるだけじゃ勝算は上がらないわよ、マリマリ」


 アキラがいつになく真剣な眼差しで、若き攻略者たちとトレーナーの瞳を一人ずつ見つめた。


「正攻法じゃジリ貧ってのはアタシたちも織り込み済み。分かってるわよね、マリマリ? この劣勢を見越して、アタシたちはわざわざ、を集めるには面積が狭くて不利なインコースを選んだんだって」

「え? それは、どういう」

「数で及ばないならで攻めるわよ。腹はキマった、セージくん?」


 ウインクされても、誠二はきょとんとするだけだ。


(質、って言ったって……この対決は捕獲数で勝敗キメるんじゃ……?)


 ゴルフカートが前進する。誠二もその車輪とアキラの疾走で、慌てて後を追いかけた。

 一発逆転を狙い、躍動するマッスルと青春極めたガールは『森エリア』へと足を進めていく――。











♢♢♢


作者コメント:

 もっと評価されろ、自分の最推し……!(※ただし、推して良いのは自分だけ)(※古参ファンのジレンマ)

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