3章 脱サラ攻略者の人生逆転マッスルロード

第17話 よそのバズにあやかりたいギルドはたくさんいるので

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朝から朝レナ!【#54】【GWトレーニング強化5日目】


投稿日:20XX年5月4日

投稿者:『筋肉三倍段』公式チャンネル

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〔今日もトレーニングお疲れ様でした〜!〕



 ミュージックを止め、レナがひらひらと画面越しのリスナーたちへ手を振る。


 トレーニング強化週間、最終日も前日に引き続き『筋肉三倍段』のガレージで撮影が執り行われた。

 ちなみに、敢行されたのはスキーストックを使ったスペシャル・トレーニング。

 ゴールデンウィークという、夏が近づき暑くなっていくタイミングで、スキーウェアを着込んだレナは涼しくなるばかりか汗をかく一方だ。


 だが、流れる汗はとても美しい。

 体を張ったレナのトレーニング姿に、リスナーたちは魅了されていた。



:おつかれー

:レナさんも完走お疲れ様!

:GW最高!

:タンクトップ以外もアリだな……



 今朝カメラマンをしていたのは真凜だ。

 生配信が終わる最後まで、真っ直ぐにトレーナーの笑顔をレンズに移した真凜は停止ボタンを押してまもなく、ボソッと。


「……スキーは一緒にトレーニング、無理じゃね?」




♢♢♢




 元スポーツ用品店営業マンの誠二いわく。


「問題ありません。現状ついているリスナーの大半は、自分がトレーニングに励むために『朝レナ』を見ているのではなく、麗奈トレーナーがトレーニングに励む姿を見るために『朝レナ』を見ています」

「あーあ……身も蓋もねー真理だわ……」

「ですが、新規リスナーを取り込むためには、やはり真のトレーニー志望者や他の業界人が注目してくれるような動線を『朝レナ』を通して、意図的に引っ張ってくる必要がありました」


 それで企業案件か。

 真凜も納得するように腕を組んで頷く。


 もちろん、案件を各企業やスポーツチームへ申し入れたのは誠二だ。

 初日の『NIKKIニッキ』は、リスナーたちの慧眼通りギルド界隈への参入を渋っていた企業のひとつだ。

 だが、営業マン時代に何度か足を運んでいた誠二の顔を、企画部の一人が覚えていた。その誠二が攻略者に転身したと聞き、今回のコラボに踏み出したのである。


「ゴルフはスポーツ市場の中でも最大手です。プロを目指すヘヴィな層から、接待などで週末ゴルフに興じるライト層まで、顧客の年齢や性別も幅広い」

「はあん。それで『NIKKIニッキ』ね」

「そしてスポーツウェアも、用品専門店の売れ行きをいつも支えてくれています。今日みたいな、そのスポーツしかやらない層にしか刺さらないアイテムではなく、最初は誰もが馴染みのあるアイテムとコラボしてもらうことにしたんです」


 誠二が表情をほころばせながら熱く語っているのに対し、真凛はいまだ冷ややかだ。


(今日のは今日のでじゅうぶんっぽいけど? いやさ、お前の目論見とは違う方向性で)


 麗奈が更衣室で着替えている間に、二人がかりで撮影機材を片付けていたところ、建物の中からアキラが顔を出してくる。


「本っ当、上手くやったわねえ誠二くん」


 称賛の声を浴びせつつも、アキラはどこか浮かない表情だ。


「けど、ちょおっと上手く行き過ぎちゃったわね?」

「えっ……なにか問題ありました?」

「初日にゴルフをチョイスしたのもあるかしらね。さっき、ギルド『つるが倶楽部』からメールが届いたの」


 ――ギルド『つるが倶楽部』?

 聞き慣れない名前に、誠二は何度か瞬きする。

 一方で、真凛と、タンクトップ姿に戻ってきた麗奈は息を飲んだ。


「ほ、本当に!? 先方はなんて?」

「合同攻略の申し出よ。もちろん、双方チャンネルでの動画配信も込みで!」


 誠二もさっと顔色を変えた。


「合同攻略? ギルド同士によるコラボってことですか!」

「すっごーい!! 『つるが倶楽部』なんて古株の一流ギルドじゃないですかあ!」


 続いて声を上げた麗奈の表情も明るい。

 その場でぴょんぴょん飛び跳ね、やがて誠二の両手をぎゅうと掴む。


「ありがとうございますっ、誠二さん! やっぱり本職で営業やってる人の売り込み方はレベルが違いますねっ!」

「い、いやいや! 俺は言うほど大層なことしてませんよ」


 謙遜ではない。誠二はうつむき、はにかんだ。

 とにかく数字にかじりついてきた生活で身に沁みて分かったのは、どんなに各所を走り回ろうと、結局売れるのは、数字が付くのは優れた商品だということ。


 配信者にとって、その商品とは動画コンテンツ。

『朝から朝レナ!』が毎週欠かさず良い動画を作っていたから――なにより。

 麗奈が懸命に体張って動画に出ていたから、捻り出せた数字なのだ。


 喜びに浸っている若人たちの傍らで。


「げえ。なんでわざわざ北陸勢が……」


 なぜか苦々しい表情を作っていたのは真凛だった。


「北陸? ……あ、敦賀つるがってことは……福井ですか!?」

「そ。ダンジョン界の4大流派が一角、『北島派』の傘下ギルドだよ」


 ――出た、4大流派!

 わずかに身構えた誠二の不安をさらにかきたてるような、アキラの証言も飛び出す。


「『つるが倶楽部』は動画のチャンネルも、か〜なり良い数字持ってる。登録者数は10万超えてるし。あのギルドとのコラボ配信をチャンネルに上げれば、確かに注目されるだろうけど……」

「晒し上げが狙いでしょ、絶対。〈U.D.D.〉も近いし。うちがアキラさんくらいしか、自分たちの抱えてるメンツに勝てる攻略者がいないって分かってて喧嘩吹っかけてきやがったんだ」

「こら、マリマリ。言い方はもう少し考えなさい。……そういえば、『つるが倶楽部』って、最近北陸にいくつか新しい支店も作り始めたのよねえ。噂では東京進出も目指しているとか」

「はー! そういう裏もあるわけかあ。安直だなー。金沢ならまだしも、敦賀まだ新幹線通ってねえじゃん」


 真凛はあごをぐいと突き出す。


「で? アキラさん。そいつら、どこのダンジョン攻略をご所望してんの? まさか、こっちが福井まで来いとかほざかないよね?」

入間いるまよ」


 アキラは一枚の紙切れを広げる。

 そこには、すでに数多の猛者たちによって攻略され尽くしたと思わしき、ダンジョン全体のマップらしき図が描かれていた。




「入間のB級ダンジョン――『カントリームサシ』」











♢♢♢


作者コメント:

 格上ギルドが勝負を挑んできた!(某トレーニング&バトルゲーム風)

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