第38話 表情豊かに。

 わたくし、笑える様になった、のかしら。

 普通に笑顔になれるように。



 だったら嬉しい。

 ラインハルト様から必要ないと離縁され悲しかった。

 家族の皆がわたくしの気持ちなんて考えず、わたくしのためわたくしのためというのにも耐えられなかった。

 だけど。

 領地に引き篭もって、泣いていたわたくしはもういない。

 うん。

 わたくしがちゃんと笑える様になったっていうなら、それはマクギリウスのおかげ、だよ。

 ありがとう。マクギリウス。

 あなたを好きになれたことが、わたくしが変わった、変われたきっかけ。

 だから……。


 お化粧はちょっと濃いめ。いつも化粧っけなんかなかったからそれだけでも随分と印象が変わるはず。

 白銀の髪はどうやら目立つらしいから、ちゃんとブラウンのかつらで隠す。っていうかこれもっさりとしてて熱い。

 服装はどこかの豪商のお嬢様ふう。

 宮廷のドレスや貴族の娘が着るようなものではなく、ひらひらの白のブラウスにボリュームのあるペチコートをはきその上からふんわりと広がる紺のスカート。豪奢だけど華美ではない、そんな雰囲気で。

 お日様の光が燦々と降り注ぎすぎだから、黒いレースの日傘をさそう。


 マクギリウスと街を歩ける。

 そのことにすっかりと浮かれていたわたくし。

 着替えを整えロビーに出ると、そこで待っていてくれたマクギリウスの姿に驚き二度見した。


「マクギリウス?」


「はは。どうだい? 似合うだろう?」


 そう右手を胸にあて礼をしてみせるマクギリウス、はといえば。


 漆黒の礼服。同じく黒のシルクハットで髪をかくし。

 目には片目だけにモノクルをはめている。


 まるで、執事みたいな? そんな雰囲気になっていた。


「今日はね、お嬢様に付き従う執事。それで行くからね」


「え、だって。マクギリウス?」


「俺のことはマックって呼んでね、良いですかお嬢様」


 えー。それはない。

 せっかくマクギリウスと街を歩ける。ううん、デート、だって、そう思っていたのに。


「知りません! マクギリウスのバカ」


「え? どうして怒ってるのアリーシア」


「もう、わたくしの気持ちなんかやっぱりわかってくださらなかったんだわ!」


「ごめんアリーシア。何を怒っているのかわかんないけど、今日はバレない様にしなきゃだから」


 ああ。そうだった。

 マクギリウスは目立つもの。

 そのままじゃいけないことくらい、わかってたのに。


「ごめんなさい……。マクギリウス……」


 しゅんと項垂れたわたくしの頭を軽く撫でてくれたマクギリウス。


「いいよ、アリーシア。そうして表情豊かになってくれたのも、俺はすっごく嬉しいから」


 そう優しく囁いて、わたくしの耳元にキスしてくれた。

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