第39話 セール。

 王都に帰ってきてからもずっとお部屋に閉じこもっていたから、こうして外の景色をながめるのも久しぶりだった。

 まあでも、わたくしはもともとそんなに外を歩いたこともなかったなって思い返す。

 ブラウド商会の時にも現場に出るのは大概マクギリウスのお仕事で、仕入れの交渉ごとなども基本お手紙で、最終的には侯爵家の執務室に出向いてもらっていたから。

 あの部屋はブラウド様がずっとお使いになっていただけあって、重厚な質感となんとも云われぬオーラみたいのをまきちらしている。

 だからかな。

 わたくしみたいな小娘でも、机にどんと座っているだけでちゃんと大物感を出せたみたい。

 そんな演出の助けもなければ流石に一四歳の小娘に大商会の会頭なんて務まらなかったとおもうのだ。


 黒のフリフリがいっぱいな日傘をさして、しずしずと街を歩く。

 斜め後ろにはマクギリウス。

 黒づくめで長身。おまけに超のつくくらいのハンサムな執事とあって、周囲から悪目立ちしちゃってる。

 確かにいつものマクギリウスとは印象が違うとはいえ、ここまで目立つのはちょっと……。

 知っている人にじろじろ見られたらバレちゃうんじゃないかって、そんな不安がよぎる。


「お嬢様。足がとまってますよ。何かございましたか?」


「もう。やっぱり目立ちすぎよ」


「まあ、それは諦めましょう。どのみち外に出ればそういうデメリットもありますから。それよりも、せっかく外に出たんですからね、ちゃんと楽しんでくださいよ。お嬢様?」


「そ、そうよね」


 そうよね。心配してもしょうがない。バレる時にはバレるものだし、それにわたくしたちが王都にいるのがわかったところですぐにアリリウス商会と結びつくわけじゃないもの。もう十分、アリリウス商会はグラブル商会の分家だ、みたいな噂は広まった。だからそこまで神経質にならなくても大丈夫、な気もするし。


 今住んでいるのは宝石アクセサリー魔法具のお店、マギアアリア本店の上階。王都のほぼほぼ中心にある商店街。それもほぼど真ん中に位置してた。

 そこからエリカティーナのお店までは歩いて少しだけどそれでも大通りを一区画は歩かなきゃいけない。それと、王都の残り二店舗は貴族街と下町にそれぞれあって、そこも今回は見てまわりたいと思っているから。

 ずっと歩きは流石に疲れるから途中馬車を使わないと無理。

 乗合馬車は敷居が高い。

 今回はマクギリウスが貸切の辻馬車を手配してくれていたからそれを使う予定。

 まあね、エルグランデ家の家紋入りの馬車を使うわけにはいかないし。


 エリカティーナの前までくるとけっこうな人だかりができていた。

 この中央店は主に商家の女性がターゲットで、お値段もお高いものからお値打ちなものまで取り揃えている、いわば服飾ブランドエリカティーナのパイロットショップだ。

 ほぼ全ての商品を取り揃えていることから、売れ筋の見極め、新しい流行の発信、ブランドとしてのエリカティーナのイメージを決める、大事なお店。


 ここで成功すればどこにいっても大丈夫。

 そんな感じ。


「セールは順調のようね」


「ええお嬢様。どうします、中もご覧になりますか?」


「ううん、いいわ。人だかりの中に入るのはちょっとね。あ、あそこのお嬢様新作を買ってくださってるわ」


「そうですね。新作用のラッピングがされていますね。あれもお嬢様のアイデアでしたっけ」


「ふふ。買ってくださったお客様がああして新作デザインのラッピングを持ってくだされば、他のお客様の目もひきますからね。もともとエリカティーナは安かろう悪かろうのお店じゃありませんから、流行のデザインをいち早く身につけたいといったお客様の顕示欲をそそる戦略でしたからね。半額セールはあくまでとっかかり。大々的に宣伝することで訪れてくださったお客様にメインの新作に目を向けて貰うのが目的でしたから」

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