第34話 【Side】マリアーナ。
おかしい。
話が違う?
わたくしが最初に感じた違和感は、お帰りになったお姉様をお出迎えした時。
「おかえりなさいお姉様」
満面の笑みで出迎える。これでお姉さまをあのお祖父様の妄執から解放して差し上げることができる。お姉様もきっと喜んでくれるはず。そう疑っていなかった。
「出迎えてくださってありがとう。マリアーナ」
そうおっしゃってくれたお姉様は、一際沈んだ表情をされていた。
異母姉妹ということもあったけれど、何よりもお姉様は幼い頃からお祖父様の教育を受けていたせいか、仲良く遊んだ記憶も少なくて。
髪の色も瞳の色も、そして顔立ちも、黙っていれば双子の姉妹のように良く似ていたわたくしたち。
それでもお祖父様の教育が始まる前はよく一緒に遊んだもので、いつも「お嬢様たちはそっくりね」とそう周りに言われていた。
お母様は違うけど、そんなことはあんまり気にならなかった。お姉様とそっくりって言ってもらえることが本当に嬉しくて。わたくしはお姉様が大好きだったのだ。
それがいつの間にか笑わなくなったお姉様。
たまにしかお会いすることはできなかったけれど、あまりにも無表情になって近寄りがたくなってしまったお姉様に、幼いながらも愕然としたわたくし。
ある時お父様に「お姉様がかわいそう」と、そう訴えたことがあった。
その時はお父様もわたくしと同じ気持ちだよとそうおっしゃって。
学園にもろくに通わせてもらえなかったお姉様は、そのまま婚約者のラインハルト様の奥様になってしまい、一緒に学園に通うことも、青春を謳歌することも、何もできなかった、のだと信じていた。
成人を迎えていない貴族の子は身内の催しにしか出席することはできなくて、大勢の貴族の前に出る侯爵家の結婚式にはまだ13歳だったわたくしは参加することもできなかった。
向こうの家とのお付き合いは、主にお父様お母様お兄様でされていたから、わたくしが侯爵家に出向くこともないまま、お義兄様にお会いすることもないまま15歳、学園の卒業パーティーのその日となったのだった。
仲の良いお友達と共に着飾ったドレスを自慢しあい。美味しいカクテルを初めていただいて気分が高揚していたのもあった。
これでわたくしも大人の仲間入りだ。
春の王国祭ではみんなでデビュタントを楽しみましょうね。と、盛り上がり。
友人のみんなはもうエスコートしてくれる相手を見つけたのか、そんな彼自慢が始まって、羨ましいなってそんなふうに思っていた時だった。
「ねえ、そこの君」
背後からそんな声がする。
振り向くとそこにはふわふわな金髪巻き毛の王子様がいた。
「名前を聞いても、いいかな?」
見るからに年上の男性。今年の卒業生ではないそんな雰囲気の紳士。
それでも、まだちょっとあどけなさを残していらっしゃるから、まだ独身の方かしら?
そんなふうに思いながらも右手を差し出す。
「わたくしはマリアーナ。マリアーナ・エルグランデと申します」
彼はわたくしの手を取って。
「踊ってくださいますか? お嬢様」
そう紳士的に踊りの輪に連れ出してくれた。
一瞬だけ、わたくしの名前を聞いて体がこわばったような気もしたけれど、ふわふわとした気分だったわたくしはそれもあまり気にしないことにして。そのまま彼に誘われるままワルツに興じたのだった。
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