第33話 お仕事をすること。

「はは。アリーシア、なんだかすごく生き生きしてるね」


「そう、かしら?」


 セバスが退席した後マクギリウスがそう言って。

 そんなつもりはなかったけど、ちょっと饒舌になってたかしら?

 ああ、でも、そうかもしれない。


「無理にでも王都に連れ出してよかった。ブラウド商会の頃は仕事するの嫌がってたみたいだったけど、やっぱりこういうのが好きなのかもね。アリーシアは」


「あ、そんなこと、ないよ? 商売のお仕事はほんとはあんまりしたくはないもの」


「はは。そう言ってあの頃も俺ばっかりに仕事させてたっけ?」


「う。だって……」


「いいよ、わかってる。これからも俺がなんでもやってあげるから、アリーシアはそうやってどうすればいいか考えてくれるだけでいいからね」


 こちらを覗き見てイタズラっぽい目をするマクギリウス。

 わたくしはふいっと目を逸らして。


「もう、マクギリウスったら意地悪」


 そう零した。ほおが熱い。たぶん、赤くなってる。



「お嬢様、お茶が入りましたよ」


 そう絶妙なタイミングでお茶を勧めてくれるフィリア。

 テーブルの上にはマクギリウスが好きなミルクティーとわたくしの好きなフルーツティー。

 お茶菓子には可愛らしいクッキーも添えられている。


「お嬢様が大好きだったロゼリアのクッキーですよー。やっぱり王都じゃないとこれは手に入りませんからね。お店もわりと近いのでこれからは気軽に買いにいけそうです」


 ニコニコとそういいながら目の前に綺麗にセッティングしてくれるフィリア。


「ああ、でも、フィリア。あなたも出かける時には少し工夫をしてくださいね」


 知り合いに見られると厄介だから。フィリアがわたくしのそばから離れないなんてこと、トランジッタ家でもエルグランデ家の者でもよく知っている。


「はい。そこはぬかりはありませんわ。これで変装していますから」


 そう言って取り出してみせたのは、メガネ?

 さっとつけてみせるフィリア。確かにこれだけでもいつものフィリアとは随分と印象が変わってみえる。


「王都では今こんなおしゃれメガネが流行っているんですって。可愛い縁取りのものがお安くお店に売っていましたわ。ああもちろんレンズじゃなくてただのガラスです」


 ああ、これなら。


「それ、いいわね。わたくしの分も買ってきてくれないかしら」


「ふふ。もうご用意しておりますよ。お嬢様にはかつらもセットで。このブラウンのカツラでお嬢様の綺麗な白銀の髪を隠すのはどうかとも思いますけれど、それでなくともお嬢様はお綺麗で目立ちますからね」


 はう。でも、かつらもあるならそれで変装すればわたくしも堂々と街を歩けるのかしら?


「ちょっと待って。まだだめだよ。絶対に一人で出歩いちゃダメだからね!?」


 そうマクギリウスに釘をさされた。

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