第31話 ブランド。
売りに出ていた2ブランドは一度別の知り合いのグラブル商会という所にお願いして購入してもらった。ブラウド様の弟子? に当たる平民の商人さんで、子供の頃のわたくしの先生をしてくれた方。いろいろお世話になったおじ様だ。
「アリーシア嬢ちゃんの頼みじゃ断れないな。がはは」っておっしゃってくれた。
そんなわりと豪快な方。
ここのところの業績の悪化もあって、割と安めに買い叩いてくれたらしい。
「俺のところでは持て余すからな。っていうか嬢ちゃんが離縁されたって聞いたときゃぁ俺の所に来てくれればなぁと思ったものだったが。まあでもお貴族様のお嬢様では無理だなって諦めてたんだ。また商売をする気になってくれたことはそれだけでも嬉しいよ」
買い叩いたなら自分で経営するっていう手もあっただろうに、快くわたくしたちに譲ってくれたグラブルさん。
ラインハルト様はそういったことには興味がないだろうからそこに支配人としてセバスが就いてても、ただ内情を知るものとして、経験者として雇用されたのだろうくらいにしか思わないかもだ。
ただ、わたくしにしてもセバスに経営手腕があるとは思っていない。
ブラウド様がお亡くなりになった後も、この一年の間でも、彼に経営手腕があるのならそこまで経営が悪化する事もなかっただろう。
少なくともちゃんとした経営判断ができて任されるだけの器があれば、トランジッタ侯爵様だったらセバスにすべてを丸投げしていただろうから。
お義父さまは、そういった商売にまったく関心がない方だった。
なんなら、商会を全部売り払ってもいい、それくらいに邪魔に思っているようだったもの。
たぶんうちのお祖父様からの申し出がなかったら、わたくしをブラウド商会の責任者にもしなかっただろう。
結婚式で初めておはなしした時も、「せっかく嫁いで来てくれた君に商売だなんて、本当は携わらせたくないのだけれどね」って、暗にお祖父様を非難するような物言いで。
ああ、この方は貴族が商売をすることすら嫌ってらっしゃるのだ。と、そんな感じも受けたものだった。
ブラウド様のことをお義父様がどうお考えだったのかはわからない。
ただ、商会に対して愛着もなければ、その商会の収入でトランジッタ家が生活しているって意識もないみたい。
まあ、普通の貴族は領地の経営領地の収入が全てだし、投資ならともかく自前で商会を経営していらっしゃるって話はあまり聞かない。
お義父さまも最近はずっと領地に行ったままだった。
あれはブラウド商会の収入ではなく領地経営(結局は現地の執事に実務はすべて任せているにしても)で生きるのが貴族だっていうプライドの現れだったのかもしれないな。って、そうも思えた。
住まいを整えながら早速すべての帳票に目を通す。
やっぱり……。
仕入れと売値のバランスがめちゃくちゃだ。
損益分岐点も完全に下回っている。
一番いけないのは不良在庫が増えすぎなところ。
バイヤー側はわたくしが探してきた仕入れラインを維持しようと無理をしてでも購入を続け、現場の商店側は利益を出そうと市場価格よりも高い値付けを維持し続けていた。
そのせいで本当だったらもっと十分人気になっただろうデザインや需要が見込めるはずだった商品までもが販売不振を続けて、結果的に買い取り先のデザイナーにも迷惑をかけてしまっている。
これじゃぁダメだ。
ちょっと手段を考えないと。
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