第29話 新しい商会を。
ゆっくりと顔をあげたセバス。かなり疲れきったお顔で少し老けたような気もする。
随分と苦労をかけてしまったのかしら。ちょっと心が痛む。
「はは……。私はクビになってしまいました……。先代大旦那様に仕え長年親しんできた商会でしたが、もうダメかもしれません……」
「ラインハルト様があなたをクビに? そんな事をしてブラウド商会は回るのかしら」
「わかりません。後釜はトマスに任せるそうです。まあでも、今の商会であればも誰がやっても結果は同じでしょう……」
「ラインハルト様では無理、なのですね……」
「私ではダメな事をダメと言っても聞き入れて頂けませんでした。それどころか『うるさい』とクビになりまして……」
「そうなのね……」
かなり気落ちしている感じそう力なく話すセバス。正直この人は誠実さが取り柄なだけの方だと思っていた。わたくしが来る前はブラウド様に言われるままに働いて、そしてブラウド様がお亡くなりになった後は侯爵様に言われるままに動くといった人。
自分で何かを決断することはできない人、そこまでの信頼はおけないひと。そう思っていたけど。
こうして気落ちした姿をみると、本当にブラウド様を、ブラウド商会を愛していたんだな、と、そう思えた。
確かに、わたくしが指示を出してあげれば間違えない、百パーセントその仕事を完遂する。そういう能力のある人ではあった。
忠誠心だけは疑いようがない、そんな人材だったっけ。
「なあアリーシア。俺たちがつくる新しい商会の代表に、このセバスを就けようと思うんだけど」
「なんと! 滅相もないマクギリウス様。私はそのような器ではございません」
「彼なら裏切らない。そして、俺たちのことを秘密にして商会を運営するには彼以上の人材は見当たらない」
「そうね。マクギリウス。ねえセバス。実際の経営はわたくしたちが執り行います。あなたはわたくしたちの指示通りの運営をしてくださればいいのよ。それならどうかしら。もちろんちゃんとそれなりの報酬は約束するわ」
「俺たちが表に出るとラインハルトもいい気はしないだろ? それにエルグランデ家のアリーシアが経営者だとわかれば、あいつのことだ、またそれならと頼ってくるに違いない。俺はあいつにアリーシアを使われるのは我慢がならないんだ」
セバスは少しだけ目を瞑り。
そして。
「わかりましたアリーシア様マクギリウス様。このセバス、いかようにも使ってくださいませ。それで先代大旦那様の商会が形を変えながらも残るのなら本望でございます。よろしくお願いいたします」
「ありがとうセバス。これからもよろしくね」
わたくしはセバスの手をとってぎゅっと握りしめ。
そして隣にいる、隣にいてくれるマクギリウスの目を覗き込んで微笑んだ。
彼も。
満足そうな微笑みを浮かべてこちらを優しく見つめていたから。
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