第5話 クウの咆哮とナーシィーの実

アティム大陸・どの国の領土にも属さない無主地・古き魔境の森


朝食を食べ終えてから、凄まじいスピードで空を爆走するクウ。

ナーシィーの実を多く食べた影響かぁ?ご機嫌で空を爆走する白き龍!


遠くに鳥系の魔物が空を飛んでいるが、

クウの気配を感じ取って慌ててクウとは別の方向に進路を変えて逃げる魔物たち。



クウが降り立つのに丁度いい場所があったので、

休憩のために草原に降り、ナーシィーの実をお昼ご飯代わりにと五個クウに与えて、

お昼を手早く済ませ約三時間ほど仮眠をとる一人と一匹。


現在は日が完全に沈み夜の空を飛行中である。

夜空にはソラシスが前世で見たことが無いほど美しく幻想的な光景が広がっていた。


「星が綺麗だな・・・この世界の月?はデカいよな。前世の二倍くらいあるな」

小学生の時に家族で山のキャンプ場に行った日の夜に見た星空よりすごい・・・。

懐かしいなぁ~思えば・・・あの頃が一番楽しかったなぁ~・・・・・。


ソラシスは星空を眺めながら前世の記憶を思い出して懐かしんでいた。

やがて満足したのか視線を星空から地上に向けるのだった。

「しかし真っ暗なのによく見えるよなこの瞳は」

現在地上では、フルティンのオッサン達がオーガに蹂躙されていたのだ。

また別の場所では、ブラックウルフとの戦闘にフルティンのオッサンが善戦していたのだ。木のこん棒を両手に持ちブラックウルフと死闘を演じるゴブリン!


神さまが作ってくれた肉体はソラシスが思っている以上に高スペックなのである。


「クウ。このまま朝まで飛べるか?」

「キュー!」

ソラシスの言葉に即答で問題ないと応じるクウ。

「このまま朝まで行けるところまで飛んでくれ!でもクウ!疲れたら遠慮なく教えてくれよ?」

「キュー!」


地平線から太陽が出始めた頃


「あの開けた場所いいな!クウ。あそこに降りてくれ!」

ソラシスの言葉を聞いてクウは地上に降り立つのだった。


ソラシスとクウが降り立ったすぐ近くに

「これ焚火の跡だよな・・・この世界に来て初めて人が残した形跡を見たな。」

このまま進めば今日中に街に着きそうだな。

ベッドで寝たいし風呂にも入りたいからな。


「クウ。お昼まで休憩しよう!昼飯を食べたら街に行こう!」

「キュー!」

「それじゃ朝飯を食べよう」

ソラシスは夜通し頑張って飛んでくれたお礼に山盛りのナーシィーの実を

クウの前に出してあげたのだが・・・・・

「キュ?」

山盛りのナーシィーの実に困惑して首を傾げるクウ。

その姿は愛くるしく・・・とてもオークの巣に単身乗り込んで蹂躙するとは思えない姿をしているのだ。


「夜通し頑張ってくれたお礼だよ。好きなだけ食べていいよ。」

「キュー!!!」

クウは喜びの声を上げた後にさらに・・・・・

「キューーーーーーー!!!」

再び大空に向かい大咆哮を上げたのだ!

初めて食べた甘い食べ物のナーシィーの実はクウの大好物になっていたのだ。

そのナーシィーの実が山盛りに盛られているのを見て興奮してしまったのだ。

「クウ!叫びすぎだ!うるさいぞ!」

ソラシスはクウに注意をするが、クウは山盛りのナーシィーの実に突っ込んで行き、

シャキシャキと果実にかぶりついていてソラシスの言葉が聞こえていなかった。


そんなクウの姿を見てソラシスは苦笑して、

クウがナーシィーの実を食べ終わるまで眺めているのだった。


強者の発した咆哮は森に住むあらゆる生物を恐怖に陥れた。


それは王者の称号が与えられている存在も例外ではなかった。



「なぁ!?・・・・・今の鳴き声は・・・・・。」

驚きの声を上げたゴルドと森の盾のメンバーたち


冒険者ギルドからの依頼で古き魔境の森の調査に来ていた森の盾のメンバーたちは、

クウが無意識に使用していた風の魔法によりクウの咆哮が風に乗りソラシスとクウのいる場所から、そこそこ離れている森の盾のメンバーたちがいる場所まで咆哮が鳴り響くのだった。


「ちょちょと・・・ゴルド・・・今のは何なのよ?」

ローズが取り乱してゴルドに尋ねるが・・・

「分からんが・・・ヤバそうだな・・・・・。」

「数は分からんけどなぁ~魔物がいっぱいこっちに来てるわ~」

エルフ族で探査が得意なミントが状況を報告する。


森の盾のメンバーたちの方へ向かっている魔物たちは、

クウ(強者)から少しでも離れたい逃げたい一心で逃げ惑っている魔物たちである。


「ゴルドさん。どうするべか」

体格が良く2メートルを超える大柄な男クマキチがパーティーリーダーに指示を仰ぐ


森の盾メンバーたちに見つめられてリーダーのゴルドは素早く決断をした。

「森の調査に入って五日・・・魔物の数はオレが知る限りここ数年で比べても多かった。特にオークの数が異常に多かった。オークの王、オークキングがいる可能性が高い。そして・・・先ほどの謎の咆哮・・・早急にギルドに報告する必要がある!」


ゴルドの判断にメンバー全員が頷く。


速やかに撤退を開始した森の盾メンバーたちだが・・・・・

「ブモォー!!!」

「くそぉ!囲まれたかぁー」

森の盾のメンバーたちは20匹ほどのオークに囲まれてしまったのだ。

「西と東からもこっちに向かって来る魔物の気配がするわ~」

「ちょ!ゴルド不味いわよ・・・」

ローズは顔を引きつらせていた。それはそうだろう。

女冒険者たちにはオークは最悪の害獣である。

生きたまま捕まれば、女の尊厳が踏みにじられるのだから・・・・・。

そんなオークたちが涎を垂らしてローズとミント凝視しているのだ。

「一点突破するぞ!ローズとミントは援護に回れ!クマキチ!後ろを頼むぞー」

「了解だべ」


各自が素早く行動に移し


パーティー名にも付けられている盾を左手に持ち

ロングソードを握り締め気合を入れる黒髪のゴルド


弓を構えゴルドの援護に回るローズ


水の魔法を使用して水の矢を作りオークに撃ち込み、けん制するミント


一点突破した後ろから迫りくるオークに巨大な斧を振り下ろし切り裂くクマキチ


オークの追撃を躱すこと二時間

「はぁはぁはぁ・・・・・。」

「ミント!?大丈夫かぁー?」

パーティーリーダーのゴルドが声を掛けたが・・・

ミントはオークをけん制する為に魔法をかなり使用して体力をかなり消耗していたのだ。今も肩で息をしているミントは手で問題ないと応じるが・・・


ちなみに魔力を使い尽くして0になっても意識は失わないが体がだるくなり頭痛がする。個人差により頭痛の痛みは軽度の者から重症の者は激痛にのた打ち回る者すらいる。


「少し休憩し・・・」

エルフ族の中でも特に美形なエメラルドグリーンの髪を靡かせ

パーティーリーダーの言葉を遮るミント。

「あかん・・・強い魔物の気配を感じるわぁ~はぁはぁはぁ・・・他にも多くの気配を感じる・・・・・。」


その時だった!


おーい!おーい!!


声の聞こえた方を見て警戒を解く森の盾のメンバーたち。


「シンじゃないか・・・どうしたんだ?それにアンナがいないが?」

こちらに駆け寄ってきた冒険者の少年に声を掛けるゴルド

「アンナは孤児院に行ってます。ぼくはヨーギィーの葉の高品質を探して森を回ってたんですけどオークの集団に遭遇してしまい慌てて逃げたせいで森の深い場所まで来てしまいました。」


ため息をつくゴルド

「シン!孤児院の為にヨーギィーの葉を探すのは良いがよ・・・今の森は危険だとギルドに張り出していただろ?情報を軽視すると死ぬぞ?」

厳しい言葉だが正論である。


ゴルドは貧しい村の出身で境遇が似てるシンを可愛がっていて、

日頃シンに冒険者の基礎を教えていたのだ。

そんなシンは見る見るうちに力を付け、15歳の若さでDランクの冒険者になるまでに成長したのだ。


「師匠すいませんでした。」

頭を下げるシン

「まぁいい。今はそれどころじゃないんだわ。シン一緒について来い森から速やかに脱出するぞ!!!」

「はい。師匠、ローズさん、ミントさん、クマキチさん。ご迷惑をおかけします」

再び頭を下げるシンに頷く森の盾のメンバーたち


一行は森からの脱出を目指して再び動き出したのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る