1:初めての刃物

 俺が初めて手にした刃物は草刈り鎌だったらしい。


 何言ってんだお前という顔をしないで欲しい。

 ただの事実である。

 田舎の子には馴染みのある、雑草を刈るためのあの草刈り鎌です。

 小さいやつね。


 あの草刈り鎌は便利なんですよ~。

 葉物野菜を収穫するときに、根本付近からズバッと切れるのも良いし。

 先の細い部分をスコップ代わりにして、雑草を抜くときに土を掘ったり。

 雑草の根切りをしながら土を適度にほぐせるのも便利だよねぇ。


 あ、脱線した。


 えー、とりあえず、生まれて初めて手にして使った刃物がその草刈り鎌だったというだけの話です。

 包丁とかナイフとかじゃなかったんだよなー。

 でも、その初めて使ったときの記憶はない。

 あるわけない。

 むしろあったら凄い。




 だって俺、その時まだ3歳になってない筈だから。




 そんな幼児が何で草刈り鎌使ってんだと言われるかもしれない。

 でも心配しないでくれ。

 当時まだ元気だった曾祖母が、つきっきりで見ていてくれたらしいから。

 というか、その曾祖母が俺に草刈り鎌使わせたんだがwww


 家の裏の小さな畑で、曾祖母は自分達が食べる程度の野菜を育てていました。

 農家というわけではなく、家庭菜園に近い感じ。

 趣味で畑をやってますというアレですね。

 そんな曾祖母の畑作業に、面白がって俺はついて回っていたようです。

 だって曾祖母は優しかったから。

 優しいおばーちゃん大好きー♪状態だったんですよ。


 で、その曽祖母、何故か俺に草刈り鎌を使わせて、ほうれん草の根っこを落とす作業をやらせていた模様。

 多分ね、多分、「おばーちゃんがやってるの楽しそう……!つーちゃんもやりたい……!」みたいなノリだったんでしょうよ。

 そして曽祖母は俺に超甘かったから、「じゃあおばあちゃんが見ててあげるから、つーちゃんやってみるかい?」ってことだったんでしょう。

 多分。

 記憶にないから知らんけど。


 母が様子を見に来たら、まな板代わりのぺったんこの大きな石の上にほうれん草を並べて、小さな俺が草刈り鎌を手にうきうきで根切りをしていたという……。

 うん、何言ってんのかわかりませんね。

 でも事実なので仕方ない。


 曽祖母がちゃんと見ていてくれたし、俺も言いつけを破るようなことはしなかったらしいので、怪我はないです。

 その後、幼稚園の年長ぐらいで柿を使って包丁の練習をし、小学校に上がる頃にはリンゴは自分で剥けるようになっていました。

 なので俺の記憶では最初の刃物は包丁で、柿の皮剥きをしてるところだったんですけども。

 後々母に確認したら、初めての刃物は草刈り鎌だよって教えられたという話です。


 いや、聞いたときに「……は?」ってなったけどね。

 確かに幼少時から曽祖母が畑にいるなら遊びに行って、雑草処理したり野菜収穫したりしてたけども。

 草刈り鎌も、気付けば結構使い慣れてたけども。

 まさか最初に手にした刃物がそれとか思わんやん。

 いやー、色々あるわー。




 なお、この話を周囲にすると、「そもそも草刈り鎌が家にない」「草刈り鎌ってどんなの?」と聞かれてしまうのであった。

 なんてこったい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る