邪神だけど生贄の女の子が可哀想だったから一緒にスローライフしてみた

第19話 牛肉のステーキ

　無事にエンジェルバタフライたちを亜空間に連れてくることに成功し、パタパタと気持ちよさそうに飛び回っている。

　スティックも新たに花を生やしてくれたので、何不自由なく暮らせるだろう。

「賑やかになったなー」

「ちょうちょさんたちも嬉しそうですね」

　この蝶たちのおかげで、今後畑を耕す際には良い質の野菜が育ってくれるだろう。

　安心安全の亜空間だし、納品質の野菜も収穫できるし、これがWIN-WINというやつだな。

『ニーグリ殿、我は腹が減ったぞ。肉を所望する！』

「あ！　私も空きました!!」

「思い出したかのように……。まぁ昼時だし、さっきのでなんか作るかぁ」

　最近肉を食べさせすぎなので魚料理にしようかと思っていたが、せっかく肉が手に入ったんだしそれで作ろう。

　牛肉ねぇ……料理本に何かあるかな。

　パラパラと本をめくり、何かないかと探す。

「おっ、やっぱ牛肉といったらこれかな。よし、〝牛肉のステーキ〟を作るぞ!!」

　蝶に気に入られているスティックと客であるクモコ、そしてゴンザレスは外に置いておき、俺たちは家に上がってキッチンに立った。

　今から火を扱うわけだし、蝶たちは近づけないほうがいいだろう。……いや、知能があるように見えるし、自分からは近づかないだろうけどまぁ一応だ。

「……シロ、キッチンに来たからといっておこぼれを貰えるわけじゃあないぞ」

『わかっておる。監視であるぞ、監視』

「シロは良い香りなのに胡散臭いですね」

『何だとッ!?　……ちょっと凹む……』

　シロに撃沈させられたシロは放っておき、料理に取り掛かることにする。

　【無限収納（ストレージ）】内で解体は済ませているので、良いサイズの肉を取り出す。確か腰あたりの肉で、サーロインとか言われている部位だな。

「さすがはベヒーモス、ボリューミーだな」

「で〜〜っかいですね！」

『ウォ……むしゃぶりつきたい……。ジュルリ』

「シロ、新築の家の床を汚すなよ？　垂れた涎分だけ肉を減らそうかな」

「さ、さすがは邪神ですね……」

『うむ……貫禄が出てきておるな……』

「なんなんだお前たち……」

　目を輝かせて大きく口を開けていたラズリとシロだったが、俺がこう言った途端に口を噤んで唾を飲み込んでそう言ってくる。

　そんなので邪神認定されたら、世界が邪神だらけになるぞ。

「よし、ラズリにミッションを与える。この道具を使って玉ねぎとにんにくをすりおろしてくれ」

「ニーグリ様、これはなんですか？」

「おろし器だ。玉ねぎをこれにゴシゴシ擦りつけると、凄い細かくなるみたいな感じだ。終わったら酒、醤油、酢、砂糖と一緒にフライパンで炒めてくれ」

「了解しました！　調味料はもう覚えてるのでいけますっ！」

　ラズリに小さい箱の形をした道具を手渡し、手伝ってもらうことに。

　ステーキにタレは必須なので、それをラズリには作ってもらうのだ。シロは相変わらず傍観犬で料理の邪魔。

　タレは任せ、俺はメインを作る。肉を筋切りし、塩コショウを両面にたっぷりまぶした後、高温のフライパンに乗せて焼いてゆく。

　十分に加熱してひっくり返したら、アルコールを手にとった。

「危ないからちょっと離れとけー」

　二人を少し離し、フライパンにそれ注いだ。

　――ゴォッ!!

　フライパンからは真っ赤な火柱が上がり、肉が炎のベールに纏われる。

「『うわぁああーーっ!?!?』」

「ど、どうした!?」

「燃えてますよ!?　早く消さないとお肉がまっ黒焦げにぃ!!」

『ウォオオ!!　後は任せろ！　たとえ燃えていようが……我が喰らい尽くしてやるッ!!!』

「危ないから近づくんじゃねぇ!!」

『うゲフッ！』

　どうやら炎がフライパンから吹き出て焦っているようだ。これも料理のうちなのだが、知らないみたいだな。

　シロは肉が無くなる恐れを抱いてフライパンの肉に食らいつこうとするが、張り倒して阻止する。

「これは〝フランベ〟っていうもんで、料理を美味しくさせる調理法なんだよ」

「そうだったんですね！　びっくりしました……」

『さ、流石、料理の知識は豊富であるな……』

「シロ、次邪魔したら3日間お前に何も食わせん」

『ハッ……!!?　……我ハ、絶対、邪魔、シナイ』

　大人しくリビングで丸まったシロを確認し終えた頃には、炎も収まっており、いい感じの焼き具合かと思ったので肉を皿に移す。

　包丁で切ってみるとうっすらとピンク色が残っている焼け具合で、一番狙っていた色で非常に満足だ。

「ニーグリ様、つまみ食いしたいです！」

「ダメです」

「むぅー……」

　全て焼くまでラズリには耐えてもらい、人数分の皿に肉を乗せて外のスティックに声をかけた。

「スティックー！　机と椅子出しといてくれー!!」

『わかりましたぞー』

　リビングの大きさ的に、クモコの下半身が大きすぎてギュウギュウになってしまうと思ったので、今回は外で食べるつもりだ。

　肉の乗った皿を二つずつ、ラズリと分けて運び、外に用意された机の上に置いた。

「おぉ、実に美味そうじゃな。して……肉の横にあるこの魔石はなんじゃ？」

「焼きが足りなかったらこれに魔力を込めて好きな焼き加減にする感じだ」

　ペレットというやつだとアイツから教えてもらったが、断然火の魔石が上位互換だろう。冷めることはないし、魔力の込め具合で温度を変えられるし。

『考えておるな。しかし我はどうすれば良いのだ？　このもふもふの手では焼けぬ』

「私が焼いてあげます！」

『おお、なんたる喜――』

「でも対価として肉を少しもらいます♪」

『……我はこの焼け具合で十分である』

「は？　おいシロ、ラズリの善意を無碍にするのか？」

『我の逃げ場は何処だ』

『コケケケコ』

　ラズリの提案をかなぐり捨てるとは……覚悟ができているみたいだな、シロ。

　そっぽを向いて汗をダラダラと流すシロを凝視しながら椅子に座る。一旦シロのことは後回しにするとして、ラズリの作ってくれたタレをステーキにかけた。

「んじゃ、とりま食べますか」

「はーい！」

　ラズリは不慣れなナイフとフォークを使ってステーキを食べ、相変わらず幸せそうに口に放り込んでは飲み込んでを繰り返している。

　俺も一口サイズにステーキを切り分け、口に運んだ。ジュワッと滲み出る肉汁とタレが舌を喜ばせ、溶けてしまったのではないかと思うくらい口の滞在時間が少ない。

「これはこれは……美味じゃの〜♡」

『ニーグリ殿の料理を舐めるでないぞ』

『ワタクシも木でなければ美味しく食べていたのですかな』

　食べれる組は各々反応していたが、全員美味いという評価だったので安心した。

　……これで、クモコにも十分恩返しができただろうな。