第17話 エンジェルバタフライ
「なぁクモコ、なんかしてほしいことはないか?」
色々と作ってもらったクモコに何かお礼をしたいと思いながら、そう問いかける。
「別に礼には及ばぬぞ。妾が好きでしたことじゃしな」
「そういうわけにはいかない。俺はお前を都合の良いやつだと思ってないんだ。優劣がついた関係は嫌なんだよ」
「……ほほ、邪神だのに義理堅いお方じゃのう。種族が同じであれば求婚しておったぞ♡」
「ふーん、そうか」
「そういうとこはそっけないの〜」
一瞬目を大きく開けて驚いたあと、俺にすり寄ってハートを投げてくるが、それをパシッとはたき落とす。
神というのは基本的に己の
『我とニーグリ殿は優劣ついている気がするが?』
「本当に優劣がついてたらお前の四肢はもう既に無いぞ」
『え、怖……』
「ニーグリ様、シロをいじめたらダメですよっ!!」
「……ごめんなさい……」
『ミスター・ニーグリとミス・ラズリでは優劣付いているみたいですな』
「ほっほっほ。主らといると飽きぬのう♪」
クモコは目を細めて笑ったあと、首を傾げて数秒考え込む。そして、何か思いついたようでぽんっと手を叩いた。
「そうじゃ、頼みたいことあったぞ」
『コッコ?』
「うむ、本当じゃぞ。実は妾の巣の奥に部屋があるのじゃが、そこにいる者の新たな住居を探してほしいのじゃ」
「新しい?」
「住居、ですか?」
『ああ、アレであるな』
相変わらずシロは何かしらを知っているようで達観した様子だ。何もわからない俺たちは首を傾けて頭の上に疑問符を浮かべる。
チラリとクモコの後ろを覗いてみると、小さい入り口のようなものが見える。あそこに何かがあるのだろうか。
『ミス・クモコ、そのそこにいる者というのはどのようなお方なのでしょう?』
「見せたほうが早いかの〜。付いて来るのじゃ」
一人で数人分の足音を出すクモコの後を追い、そのナニカがいる空間へと進む。
クモコの巣からは明かりが吊るされていたのでさっきの空間は明るかった。しかし、奥に進むにつれて闇が肌に纏わりついてくる。
「ラズリ、ん」
「! えへへ♪」
ラズリに手を差し出すと、ぎゅっと握って温もりが伝わってきた。
暗くて転ぶかもしれないしな。もしラズリが転んでしまった暁には、ここら一帯を絶対に転ばないように整地しなければならなくなってしまう。そう……跡形もなく、な。
「……ニーグリ様や。何か良からぬことを考えておらぬか?」
「んー? さぁな〜?」
『これは嘘をついている時の喋り方であるぞ!』
『コケ……』
『邪悪な笑みですな』
そんなこんなで歩き続けていると、最奥まで辿り着く。そこには布がかけられており、何かをそこに封じ込めているようだった。
クモコは布をめくってその中に入り、手だけ出してちょいちょいと俺たちを招く。
「ん? おー、奇麗だな」
「わぁ! キラキラしてますよ!」
目が悪くなりそうなほど煌びやかに光る小さな空間だ。地面には一面の花畑、その上には五匹だけ飛ぶ蝶がいる。金色に青の模様の入った神秘的な蝶だ。
しかし、あれらが振りまく粉……鱗粉には何か不思議なものが込められているっぽいな。
「この子らは
じゃが、流石に地面の栄養が底をつきそうということで、引越しさせようかと思うてな」
クモコは蜘蛛の足ではなく、上半身にある人の手に蝶を乗っけて眺めていた。その横顔はどこか憂いを帯びており、俺と同じ哀愁が感じ取れる。
この蝶たちの新たな住処、か。果たしてあるだろうかな。
『オオ、見てくださいミスター・ニーグリ、ワタクシ、ハーレムができましたぞ』
「残念ながら、蝶に卵を産み付けられている植物にしか見えねぇな」
「スティックさんモテモテですね!」
植物……花……。この深淵の中にそんな安全な場所はあるのだろうか。
それなりに強い魔物がウロつくこの深淵で花を咲かせ、キラキラ目立つような場所は一瞬にして壊されるだろうし……。絶滅が目に見えてしまう。
『このエンジェルバタフライの鱗粉は確か、植物の成長促進や品質向上、他にも薬として使われているらしい』
『コッケケココ、コケコココケ』
「『相変わらず物知りだな』って、たしかにゴンザレスの言う通りだな。……待てよ、植物の成長促進に品質向上……?」
俺は、ラズリと出会って間もない頃の記憶を思い返し、脳内で再生させた。
――なぁ、もし村から自由になるなら、お前は何をしたい?
――え……。私は……畑を耕したり――
「……! にっひっひ……あるじゃねぇか、世界で一番安全で、しかもお互いに利益しか生まれねぇ場所が!!」
クモコの引越しさせたいという願い、ラズリの畑を耕してみたいという願い、俺の美味い飯を食べさせたいという願い。
それらを全部叶えられるかもしれない。
「こいつらの引越し先――俺たちの亜空間はどうだ!?」
『確かに、あそこならば自然豊かであるし、安全であるな』
『花もワタクシめが無限に生やせますぞ』
『コケー』
「きっとちょうちょさんたちも喜びますよ!」
賛成多数だが、決定権はクモコにある。
クモコは少し考え込み、一度その空間を見てから引っ越しを検討するということになった。
俺は再び【
「成る程。これは確かに良き場所じゃ。……
「だろ? 俺もここは、大切な
「そうなんじゃな……。……うむ、あの子らの引越し先さ此処にしても良いか?」
「ああ、もちろん!」
俺たちは満面の笑みを浮かべながら、親指を立てた。
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