第16話 依頼

 家の建設後、俺は早速キッチンにて朝ごはんを作っていた。火の魔石つき魔道具はぴったりフィットしたし、料理の道具をしまう場所も確保されていてとてもありがたい。

 思わず鼻歌が漏れ出てしまうほど使い勝手が良い。


 フライパンの上に一から作ったフランクフルトを転がして焼く。ついでに昨日余ったキャベツも塩コショウと一緒に炒める。

 それが終えたら、パンに切れ目を入れ、キャベツの敷布団を敷いた後にフランクフルトを寝転がす。そして最後に、ケチャップと言う名の掛け布団をかけて……簡易的な〝ホットドッグ〟の完成だ。


「ほい、簡単なものだけど許してな」

『面妖な加工をした肉であるな。だが美味だぞッ!』

「シロはなんでも『びみびみ』言いますね〜」

『そう言うラズリ殿も決まって「美味しいです」って言うではないか』

『コケコケ』

「俺の料理で喜んでもらえてるようで何よりだな」


 皆何かと言いながらも、頰を落としそうになるくらい美味しそうな顔を浮かべながらホットドックを食べ進めている。

 外での食事と良いが、やっぱり室内で食べる料理は落ち着くな……。


『ミスター・ニーグリ様、今日は一体何をするのでしょう?』

「んぁー、そうだな……。クモコにカーテンやら布団やらを頼もうかな」

「けどニーグリ様、クモコさんとは服を作る約束じゃなかったですか? 服以外も大丈夫でしょうか……」

「確かに……」


 クモコとはまだ一回しか会っていないし、交友も深められていない。果たして頼まれてくれるだろうか。


『クモコは基本寛容であるから大丈夫だと思うぞ。しかも、最恐の邪神であるニーグリ殿ならば命令一つで従わせられるであろう?』

「悪いが、一度友好関係を築いたやつとはそういう上下の位置付けしたくねぇんだよ」

『……前々から思っていたが、ニーグリ殿は意外と優しいのであるな』

『コーケ』

「あ? 意外だと? 聞き捨てならないな。い尽くしてやろうか?」

『やめてくれ。あれは精気を吸われている気分に陥る』


 ま、邪神だから邪悪な姿が想像されても仕方ないか。好きでなったわけではないけれどな。


 腹いせにホットドッグをガツガツと口に放り込み、完食した。

 ラズリも食べ終えて満足げな顔をしているので、クモコのとこに向かうとしようか。まぁ仮に断られても、ラズリにおねだりしてもらえればイチコロだろ! 俺がそうだしな!


 【空間転移テレポート】を使い、クモコの元へとひとっ飛びした。



###



 亜空間から久々に出た感覚がして、深淵は闇に包まれており閉塞感が俺たちを襲っていた。

 普通の洞窟よりだいぶ広いのだろうが、地下は地下だ。


 転移後にそんな深淵を少し歩き、クモコの巣へと到着した。


「おーい、クモコー!」

「クモコさーん!」

『コケコッコー!』

「おやおや、随分と早い再開じゃな♡ 面妖な木も増えておる。して、今日は何用で妾を訪ねたんじゃ?」


 シュルシュルと糸を吐きながらゆっくりと下降をしてきて、俺たちの目の前まで降りてくる。そして、流れるようにラズリの頭を優しく撫で、ラズリも嬉しそうに微笑んだ。

 とりあえず今までの経緯をクモコに話し、カーテンやら布団やらを作ってくれないかと頼んでみる。


「ふむ、お安い御用じゃ。じゃがの〜、作るにしても窓の大きさを知らねば作れぬぞ」

「それについてはスティックに任せようか」

「スティックさんは私たちのお家を作ってくれた方ですよ!」

『ワタクシの名はスティック。以後お見知り置きを、ミス・クモコ』

「ほほほ、よろしゅう頼むぞ。じゃか……口はどこにあるのじゃ?」

『…………。破廉恥えっちですぞっ』

「なぜじゃっ!!?」


 瞠目させるクモコの顔はこちらに向くが、俺たちにもなぜそれがえっちなのかは知らん。だがまぁ、乗っておこう。


「クモコ、助兵衛すけべえだな」

『うむ、我の前で猥談をするでない』

『コッケ』

「えっちってなんですか?」

「主らまでなんなんじゃ!? そしてラズリはまだ知らなくて良いことじゃ!!!」


 神のみぞ知るってやつか……。……俺、神だな。

 そんなどうでも良いことは置いておき、クモコはスティックと話し合って早くも作り始めるようだ。


「さてさて、それでは始めるぞ」


 クモコの尖った足先から糸が放出され、一瞬にして編み込まれて巨大な布と化す。それだけではなく、布には花畑の柄があり、クモコの技は思わず息を飲むほどだ。

 次にクモコは布の両脇を少し折り、足先の爪を赫灼させ、布を折ってそれを押し付ける。


『相変わらず無駄に器用であるな』

「ほほほ、主は無駄に毛むくじゃらではないか」

「確かにそうだな。もし俺が名付けるなら『ケダルマ』にするつもりだったし」

『ウオォ……我、シロでよかった……。ラズリ殿、感謝するぞ』

「えへへ、シロはシロですからねっ♪」


 ラズリが名付けた「シロ」という名は一見単純なものに感じられるが、氷を操るフェンリルという事からや、心の奥にある犬の純粋無垢を表現した美しいものだ。

 俺もラズリのネーミングセンスを見習わなければならないのかもしれないな……。


 談笑をしながら待っていると、クモコが一息ついたようで俺たちに話しかけてきた。


「ふぅ、完成したぞ。全窓分のカーテン、寝具等、あとついでにカーペットも作っておいたのじゃ」

『お疲れ様ですぞ、ミス・クモコ』

「スベスベですよ! すごいです!!」

『コケコケ……』

「おぉ! すごいな……触り心地が最高だ……。シロから乗り換えようかな」

『喫われるのは好きではないが、それはそれで癪であるな……』


 作ってもらったのはありがたくもらい、【無限収納ストレージ】に一旦しまっておく。

 だが、ここまでしてもらってはいさよならってのは、全く良い気分ではない。何かお礼をしなければな……。

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