第15話 我が家

 無事に朝を迎えることができ、木漏れ日を浴びながら目を開ける。


「……朝か。今日は寝相悪くなかっ……いや、どうだかな」

「すー……すー……」


 目の前には寝息を立ててスヤスヤ眠るラズリの姿があるのだが、少々位置がズレている。横にいたはずのラズリは、俺の上に乗っかって首に手を回して抱きついていた。

 蹴られる、殴られるというのはなかったが、これはこれで寝相が悪い方なのでは?


《ふぉふぉふぉ。朝っぱらからイチャついておるのう。若い若い》

「黙れジジイ。ゴンザレスぶつけるぞ」

《あれ痛いからやめてくれ……》


 まだ眠っていたゴンザレスは、俺の圧を感じ取って飛び上がる。


「全員起きたら帰って建築の会議するか」

『ココケケイコ?』

「んー……。まあ起こさなくてもそのうち起きるんじゃないか?」


 その後、全員が起きるまで待とうとしたのだが、一向に起きる気配がないので無理矢理起きてもらうことになった。


 全員が眠気を遥か彼方に放って身支度を整え、スティックを連れて元の場所帰ることに。


「んじゃ、スティック借りてくぞ。色々ありがとなジジイ」

「ありがとうございました!!」

『世話になったぞ』

『コケッー!』

『行ってまいります』

《うむ。たまには顔を見せるんじゃぞ》

「発言がジジくさいぞジジイー」

《うるさいわい!》


 ジジイは伸びている枝を上下に動かし、俺たちに向かって別れを告げた。こちらも手を振りながら【空間転移テレポート】という奇跡スキルを使い、この地を後にした。



###



「さて……。そんじゃあ我が家の建築会議を開始するッ!!」


 狭いテント内にて、俺がそう宣言した。

 俺たちの家は、要望を一つも取りこぼすことのない完璧な家にする予定だ。なので、会議は必須である。


「まずみんなが欲しいものを言い合おう。遠慮せず言うように。俺はそうだなぁ……広い寝室、風呂場、和室とかだな」

「じゃあ私も行きます! おっきなリビングにキッチン! あと屋根裏部屋も欲しいですっ!!」

「屋根裏部屋はロマンが詰まってるらしいからな〜」


 そういえばキッチンは絶対に必要だな。

 食材の保管庫も俺の【無限収納ストレージ】ではなく、共有できる魔道具的なものも欲しいところだ。


「んじゃ次、シロ!」

『我が走り回れる巨大な庭が欲しいぞ!』

「なるほど。要するにドッグランってわけだな」

『犬ではないわッ!!!』


 この空間が庭みたいなもんだし、庭とかは必要ない気がするが……。まぁシロはドッグランをご所望、と。


「最後、ゴンザレス!」

『コケイ』

「え、書斎……? お前本読めんのか?」

『コケッ』

「そう……ならいいが……」


 本が読めるチキンって普通なのか? まぁこれも偏見なんだろうな。今時のチキンは活字が好きらしいな。

 俺たちの要望をメモしていたスティックは頭の上の葉をわさわさと動かして数秒考え込む。


『承知しましたぞ。ウウム……。だいたいこんな感じでしょうかね』

『ム、構想は決まったのか?』

『いいえ。

「……? スティックさんは何を行っているのでしょうか?」

「俺にもさっぱり――って、まさか……!」


 俺はテントの外に勢いよく出る。

 すると、目と鼻の先には先ほどまでなかったはずの巨大な建造物そびえ立っていた。三角屋根の豪邸並みにデカイ家だ。


「……早ッ」

「すごいです!」


 そういえば、帰ってきたら【無限収納ストレージ】にしまっていた角材を全て放出して置いていたし、テント内からそれらを動かして作ってたのか。

 見ずに建築もできるとは思ってなかったな。


「ま、なんにせよありがとな、スティック。さてさて……そんじゃあ物色するぞ!!」

「『おー!(コケーッ!)』」


 全員で家に向かって走り、勢いよく扉を開ける。

 玄関から広く、靴も何十足も置けそうなほどだ。奥に進むと、日当たりの良いリビングに広いキッチンが見えた。


「おお! ここにあの魔道具置いて……こっちにもまだ置ける……。たはー! 早く置いて料理作りたいな!」

『だが、まだ内装は何も無いな』

「テーブルとか椅子はあるし、木材のやつしか置けねぇんだろうな。布団とかカーテンはクモコに作ってもらうか」


 リビングルーム、キッチン、物置部屋、寝室などあるが、木材以外の物は置かれていない。

 ここから増やしていくために、物作りもしなくちゃいけなさそうだな。


「ニーグリ様、このお部屋はなんだか不思議ですよ?」

「ん? あー、俺が所望した和室だな! 畳はついでに【無限収納ストレージ】から出してたし、敷いてくれてたのか。あ〜、この匂いに質感……最高だ……」


 畳、障子、襖がある落ち着く空間。俺は畳でゴロンと寝転がり、畳独特の匂いを肺に詰め込む。

 これは良い。シロの香りが吸えない時はここでスタミナ回復しよう……。


『しかし、ニーグリ殿は変わっておるな。このような部屋は人間界では全く見かけなかったぞ』

「まぁそうだろうな。東国の部屋を真似たものだし」

『コーコケコケケコ?』

「んー。東国が好きというか、俺は元々東国の神だから必然的に好きだぞ」

『ワタクシめもそれは初耳ですな』


 ラズリも俺を真似て横に転がる。ふわりと漂う畳に一瞬戸惑うが、すぐに落ち着いて眠りそうになっていた。


「ラズリー。寝るにはまだ早いぞ」

「はっ!? 危うく寝ちゃうところでした……。たたみというのは恐ろしいですね……!」


 ラズリを起こし、家の物色を再開する。

 ラズリが欲しかった屋根裏部屋も、ゴンザレスが欲しかった書斎もちゃんと作られていたのだが、シロが欲しかった庭はなかった。


『あんまりであるぞーー!!!』

「まぁまぁ。この空間がドッグランみたいなもんだしそれで我慢しろよ。はい、ジャーキー」

『クッ! なんだこの肉、美味であるぞ!!』

「ニーグリ様、私も食べたいです!」

『コケ!』

「悪いがこれは犬用だ」

『我は犬ではない! もっしゃもしゃ……』


 尻尾をちぎれんばかりにブンブンと振り、不服そうな返答をしながらジャーキーを食べるシロ。

 こいつはとりあえず肉を渡しておけば機嫌が治るので、今後ともいじったり吸わせてもらおうと心の中で思った。


 ま、兎にも角にも、念願のマイホームの完成だ。

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