第14話 想い
豚カツを美味しく平らげた後、優雅なひと時を過ごしたところで夜も更けてきた。
ラズリはツリーハウスで寝たいと言ったのでそこでシロと寝かせることにした。俺はまだ眠れなさそうだったので、ハンモックでダラダラと過ごすことにしている。
「はぁー……ハンモックいいな。あっちでも作ってもらおう。にひひ、あー楽しみだ」
『気に入ってもらえたようで何よりですぞ。あちらでも誠心誠意努めていただきます』
《儂の代わりに頑張るんじゃぞ》
家はどうしようか。風呂は欲しいし、広いキッチンも欲しいな。こればかりはラズリと相談して決めた方がいいだろうが、妄想が広がるな。
ニヤけながら頭上の葉っぱを眺めていると、唐突にジジイが俺に質問をしてきた。
《……付かぬ事を聞くのじゃが――以前の人の子は死んでしもうたのか?》
「…………。ああ……だいぶ、前だけど。流石に寿命だ」
そういえばジジイにはアイツが死んだことを言ってなかったな。報告とか言っていられる心境ではなかったしな……。
俺の笑みは一瞬にして消え失せ、ため息が漏れでて空で霧散する。
《純粋な質問なんじゃが、なぜお主はまた人の子と共に生きようとする? なぜ限りある命に執着する?》
「それがアイツとの約束だからだ。例えまた俺が傷つこうが、大事なやつの約束は破れないんだよ。
それに、俺は
《……そうか。悪かった》
「良いってことよ。……はぁ〜あ! なんか空気重いなー! おいジジイ、なんか面白い話しろよ」
《えぇー……無茶振り……》
過去のことはまだ振り切れていない。それどころか、過去に囚われている。
チクショウ……あの女、俺の
葉の隙間から月が覗いた途端、過去の声が脳裏に響いてきた。
――にひひ。今日は月が綺麗だね、ニーグリ。
「……そういや、いつのまにか笑い方も
あの青い瞳にシルクハットを被るアイツはもういない。所詮は人の子、だのに忘れられない。たった数十年で俺の脳が焼かれた。
まぁだけど、残してくれたもんが山ほどある。なんとかやるよ。だからそこで見届けとけ。
ゴロンと転がり、もう寝ようとしたのだが、地面を踏みしめる音と鼻をすする音が聞こえてきた。
「ゔー……。にーぐりしゃま……!」
「ら、ラズリ!!? な、なんで泣いて……おんどりゃあァ! 誰がラズリを泣かせた!! ボコボコにしてやるァア!!!」
ポロポロと青い瞳からは涙が溢れでており、鼻を赤くしたラズリの姿がそこにあった。
『それが、ニーグリ殿が居なくて寂しくなったとのことだ』
『コーケ』
「じゃあつまり……ボコボコにしなければならないのは俺自身か……。ヨシ」
《何がヨシじゃ。ここら一帯が荒地になるからやめろ》
とりあえずラズリの頭を撫でると、ひしと俺に抱きついてきた。
俺と出会って数日、楽しい時間を過ごしているが、まだ心の傷は癒えないのかもしれない。それに気づけなかった罪悪感がこみ上げ、罪滅ぼしをするように抱き返した。
「……どうする? 俺もツリーハウス行こうか?」
「んーん……ここでねます……」
「二人で乗ると危ないが……まぁ俺がなんとかすればいいか」
ハンモックに二人で転がり、片腕にラズリの頭を乗っけ、もう片腕でこちらに抱き寄せて寝る形となる。
シロとゴンザレスは流石に乗れないので、下で丸まって眠るようだ。
『フム、ではワタクシめが子守唄を歌って差し上げましょう』
「そんな機能も付いてんのか。
『ゴホン。では一番眠れる部分から……。スゥッ――』
トントンとラズリの背中を優しく叩いて眠りにつかせようとしたのだが……。
『――
「ちょっと待て。子守唄じゃねぇだろそれ」
『え?』
「『え』じゃないんだが?」
詳しくは知らないが、あの人間と一緒に聞いたことがあるぞ。子守唄じゃないのは確かだ。子守唄らしからぬほど力強く歌ってるし。
初めてスティックのポンコツ場面を見たな……。
『しかし、ミス・ラズリは既に眠っておられますぞ』
「え?」
「スヤァ……」
「えぇ……??」
スヤスヤと寝息を立てて眠るラズリがおり、俺は困惑という感情しか出てこなかった。
「まぁ寝たんならいいが……」
『おそらくだが、子守唄(?)ではなくニーグリ殿の心臓の鼓動で安心したのではないか?』
『ワタクシめの子守唄ではなったのですね……。トホホ……』
「心臓、ねぇ……」
『……「自分の音と似ている」とかなんとか言っていたような……』
「ん、なんか言ったか? まぁいいか」
鼻が赤くなりながらも、幸せそうに眠るラズリの顔を見て一息吐く。
そうだなぁ……。寝室は分けようかと考えてたが、これも相談しなきゃいけないっぽいな。
「うへへ……あったかい……」
「なんか言ってんな。ふわぁ……。俺も眠くなってきたし、寝るか」
心配事は募るばかりだ。
今一番心配なのは〝ラズリの寝相でタコ殴りにされないか〟だ。
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