第13話 豚カツ

 十二分にツリーハウスを満喫し、日も暮れてきたのでそろそろお開きにしようと思っていたのだが……。


《折角ツリーハウスがあるのだし、今日は泊まっていったらどうじゃ。暗い中帰らせるのも申し訳ないしのう》

「あー……まぁ元の場所に戻ってもテントしかねぇからな。そうさせてもらうか」

「お泊りですか!? 初めてします!」

『我は肉を所望だ!』

『コケケ』


 はてさて、そんじゃあお泊りすることに決まったんだし、晩御飯を作るか。肉、肉ねぇ……。

 【無限収納ストレージ】から料理本を取り出し、ペラペラとページをめくる。ピタリと手が止まり、ソレをじっくり読む。


「ふむ……いいな。マウントボアももうそろそろ無くなりそうだし、使い切ろう。〝豚カツ〟を作るぞッ!!!」

「わ〜い! ……とんかつが何かわかりませんが……」

『コケ……』

『ゴンザレス殿は肉料理を禁止されているゆえに悲しそうであるな……』


 ゴンザレスはもう自分が肉を食べられないと察しているらしく、落ち込んだ様子だ。

 今度お前のために料理してやるから我慢してくれ。うん……だから股間めがけて突進するのはやめて。


『ホホウ、豚カツですか。ワタクシの記憶にもありますぞ。植物から油を抽出できるのでお任せを』

「お、ありがたいなスティック。だがジジイのはやめろ。なんか賞味期限が切れてる味がしそうだし」

《誰の樹脂が老いぼれてるじゃとーーッ!!?》

「悪いがチェンジだ、ジジイ」

《クッ……! 樹脂を搾り取られるのは嫌じゃが、これはこれで悔しい……!!》


 収納していたマウントボアの肉を取り出し、宙に浮かせたまま奇跡スキルを発動させる。


「【破式はしき時雨しぐれ】」


 力を超〜〜ッ絶弱めて肉を奇跡スキルでサンドバッグのように叩きまくり、柔らかくする。そして小麦粉、パン粉、卵(産みたてほかほか)、塩コショウを取り出す。

 塩コショウをまぶした後、小麦粉をまぶしてといた卵に浸す。そしてパン粉をつけ……あとは揚げるのみ。


『植物油が用意できましたぞ』

「サンキュースティック。じゃあそこに入れて火の魔石にかけといてくれ」

『承知しましたぞ』

「ニーグリ様、私もお手伝いしたいです……」


 ちょいちょいと服の裾を引っ張られ、上目遣いの顔が俺の目に映って思わず「ア゜ッ」と悲鳴が出て失明したかと思った。


「そ、そうだな……。じゃあこのキャベツを千切りにしといてくれ……ッ!」

「わかりました!」

『フッ。見ろゴンザレス殿、あまりの尊さに目がやられておるぞ』

『コケイコケイ』

「おいゴンザレスー! なぁにが『愉快愉快』だ!! チキンカツにすんぞ!?」

「チキンカツ……? じゅるり」

『コケッ!?!?』


 ったく。ゴンザレスアイツ、質のいい俺の魔力で懐いたんじゃなかったのか? 慣れていることは確かだが、慣れすぎて舐められるのは癪だ。

 ザクザクとキャベツを切るラズリの横で、次々と肉に衣服を着させる。


『十分に熱せられましたぞ』

「よし。んじゃ、投入!」


 ――ジュワァアアア!!!


 まだかまだかと待ち構えていた油が、獲物にくを入れた途端に暴れ始めていい音で鳴き始める。

 耳が幸せだ。ラズリもこの音を聞きつけてコッチを見ている。そして涎が垂れかけていた。流石にキャベツの隠し味にそれをかけるのはやめなさい。衛生上問題がある。


 スティックにナプキンでラズリの涎を拭いてもらい、なんとか涎トッピングは免れた。油で踊る肉に目を戻し、箸で確認する。


「そろそろか……」


 油の中から肉を取り出すと、なんということでしょう。初々しくパン粉を纏う可愛らしい姿から、きつね色の美しいカツへと変貌したではないか。

 そいつをまな板の上に乗せて、包丁でザクッザクッという音を立てながら切る。湯気が立ち、カリカリサクサクの衣の中にはジューシーな肉が挨拶をしてくる。思わず敬礼したくなる中身だ。


「にっひっひ。いいね」

『美味そうであるな! 我は早く食べたいぞ!』

「え〜? お前さっき俺のことで笑ってたし、どうしよっかな〜」

『そんな……! ご、後生であるからどうか我にとんかつとやらをぉ!』

「わかったからあっち行け! 油が跳ねて火傷するぞ!」


 しっしとシロを追い払い、どんどんと肉を揚げてゆく。

 十二分に肉が焼け、キャベツも切れたところで飯にすることにした。


「さて。カツとキャベツは全てカットし終えて皿に盛った。主食のパンもある。……だが、カツにマリアージュするメンバーを召喚するぜ!! ソース、おろしポン酢、そしてミソだ!!!」

「よくわからないですが美味しそうです!!」


 ちなみに俺は味噌カツが大好きだ。なので初っぱなからかけちゃう。ラズリはソースをかけ、早速食べることになった。

 口に入れ、カツを噛んだ途端にシャクッと鳴る。その後すぐに肉汁が溢れ、噛めば噛むほど口内がうま味で満ちる。


「美味い……。だが白米も食べたくなるな」

「おいしい! めちゃくちゃおいしいです! ガツガツガツ……」

『美味である! 食っても食っても飽きぬ!!』


 ミソだけでなく、ソースやおろしポン酢もお代わりしたカツにかけて食す。各々良いコンビを組んでおり、手が止まらなかった。ラズリとシロも勿論、アホほどお代わりをした。

 そのせいで、第二陣、第三陣とカツを揚げなければならなくなった……。

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