第12話 ツリーハウス

 アップルパイを腹一杯になるまで食べたあとは、スティックが用意してくれたハンモックに揺られながら優雅のひと時を過ごしていた。


「お腹いっぱいでダラダラしながら揺られる……うへへ♪ 最高ですね!」

「食後に寝ると牛になるとかふざけたことをアイツに言われたが、こんなに気持ちいいんならなってもいいよなぁ……」

『助けてくれ。ハンモックでぐるぐる巻きだ』

『……コッケイ』

『おいゴンザレス殿、今滑稽って言ったか?』


 木漏れ日を浴び、木々のざわめきで耳を洗い、そよ風は眠気を運んでくる。喉が乾いたと思えば、俺たちが何も言わずともスティックがりんごジュースを用意してくれる。

 なんだこの空間、ずっといたいぞ。幸せすぎてラズリもニヤケが収まっていない。


《……寛ぐのは結構じゃが、何故お主は此処へ来た。理由がまだ説明されていないぞ》

「ああ、そういえば言ってなかったな。実はこの空間で家を建てるんだが、木材とか建築方法とか教えてもらおうと思ってな」

《ふぉふぉふぉ。破壊神が建築までするとは世も末じゃな》

「うるせー。ラズリのためならなんだってやんだよ」


 ジジイはバカにしつつもどこか感心している様子だった。

 頭の後ろで手を組んでため息を吐く。


《建築ならば、そこのスティックを連れて行くといい》

「コイツ? まあ確かに腕を自由自在に変形できるのは便利そうだが……」

《いいや、それだけではないぞ。此奴は生きていようが死んでいようが、植物を自由自在に操れる奇跡スキルを持っておるからのう》

『化け物じみた奇跡スキルであるな。あと我を助けよ』


 植物の生死を問わずに操作できると言うのならば、加工した木材をも操作できるわけだし、建築に最適だ。

 飯も果物系統の物だったら作れるらしいし、ラズリにも真摯に対応してくれている(一番大事)から、まぁ良いかもな。


『ではワタクシの奇跡スキルを売るべく、力の一端をお見せ致しましょう』

「おー、やれやれ〜」

「見てみたいです!」

『コケケ!』

『我も見たい! 助けてくれーーッ!!!』


 叫ぶシロの声は右耳から左耳に通過するだけであり、皆はスティックに注目をしていた。

 スティックは木を間引きした際に抜いたであろう丸太の山に手をかざす。踏ん張って動かすわけでもなく、手をかざしただけで丸太は宙に浮いてみるみる角材へと変化する。


「「『おぉー!(コケー)』」」

『ここからですぞッ!』


 大量の角材は少し背が高めの木に集まり、パズルのように組み合わさってゆく。床、壁、ハシゴ、窓、さらには滑り台などまで。

 あれよあれよと言う間に遊具付きのツリーハウスが完成した。


『ふぅ。ツリーハウスの完成ですぞ』

「すごいです!! 一瞬でお家ができちゃいましたよ!!?」

「ああ、すごいな。ほら、シロも見てみろ」

『フン……今更救助されてもな。いつのまにかツリーハウスが出来上がっておる。我も見たかったぞ!』


 テシテシとかわいい音を立てて床にお手を何度もし、怒りをあらわにしているシロ。


「ごめんて。どーせまた見れるんだから元気出せよ」

『助けて欲しかったのだが?』

「ああ、次からは助けるかもしれないから安心しろ」

『かも……?』


 不満げに俺を見つめるシロの視線を避けると、必然的にラズリの方に顔が向いた。彼女の瞳は星のように輝いており、眼前のツリーハウスに釘付けとなっている。

 そしてギュルンッと俺の方に顔を向け、ソワソワし出していた。


「……わかったよラズリ。そんじゃ、あのツリーハウスを遊び尽くすぞッ!!!」

「わーい!! シロ、行きましょう!」

『ム、毛を引っ張るでない!』

『コケー!』


 一目散にツリーハウスに駆け寄り、はしごを登る。ご丁寧にスロープまで付いており、シロやゴンザレスも難なく登れる。

 はしごを登りきると、内装は簡易的な椅子や机、棚などがあるだけだった。だが、窓から見ることができる眼下の光景は思わず息を飲むほどであった。


「ニーグリ様! 滑り台しましょう!!」

「オーケーだ! さぁ、いざ行かんッ!」

「ひゃ〜〜!!」

「結構早いな!?」


 滑り台の前で居座ると、ラズリはトテトテと足音を立てて近づいて俺の上にちょこんと座る。

 少し前に移動をして滑り始めると、風が俺たちの髪を乱れせ、速度がどんどん上がった。


「楽しいか?」

「はい! もう一回行きましょう!」

「ならよかった」


 ニパッと目を細めて笑うラズリの髪を撫でると一瞬瞠目したが、今度は少し頬を赤くしてさらにふにゃふにゃに笑ってみせた。

 和んだ雰囲気だったが、叫声がそれを壊す。


『ヌオァアーー! 早いぞーー!!!』

『コケーー!!!!』

「おー。見ろラズリ、シロが泣き喚きながら滑ってらぁ」

「ゴンザレスちゃんは転がってますけど大丈夫なのでしょうか……」


 シロは地面に緊急着陸したが、ゴンザレスは勢いを殺すことができずに転がって、ジジイに突撃していた。

 ゴンザレスは丈夫だから無事だろうし、怒られる前に次の遊具で遊ぶことにしよう。


 滑り台を遊び尽くしたら次はブランコに。それが終わったら今度はジップラインで遊んだりと。

 子供らしくはしゃぐラズリを見れてよかった。スティックには感謝しなければな。

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