第9話 家の為

 ――ドゴッ!!!


「…………痛ェ」


 朝一番、俺は頰に走った衝撃で目を覚ました。

 BBQバーベキューをした後テント内でみんなで寝ていたため、枝や小石が落ちてくるなんてことはない。では何かって?


「ラズリ寝相悪っ」

「すー、すー……。ふ、ふへへ……お肉が空から降ってくる……。しあぁせれふ……」


 俺の頰には、ラズリのすべすべな足がある。だらしなくヘソを見せ、少しヨダレを垂らしながら笑っている。

 昨日は寝た時は緊張もあって大人しかったが、心を許して本来の寝相に戻った……と考察をした。


「ここまで寝相が悪いとは思ってなかったな……。よいしょ」


 足をどかし、自分の体を起こした。

 どうやらシロやゴンザレスも被害に遭っていたらしく、ひっくり返ったり吹き飛ばされている。


「……大丈夫かお前ら」

『ヌ……朝か。夢の中で奇襲を食らった気がするぞ……』

『コケェ……』

「ゴンザレス、お前はチキンだろ。なんで一番に目ぇ覚ましてないんだよ」

『コケコッコ、ココケコココ』

「え? 『チキンだって熟睡したい』だぁ? ……それもそうか。先入観で縛るのは良くないよな……」


 えっへんと言わんばかりに胸を張るゴンザレスにごめんなさいした後、テントの入り口に手をかけて陽光を中に入れる。

 すると「うぐっ……」というラズリの声が聞こえ、ようやく体を起こして青い瞳を露わわにさせた。


「んー……。はょざぃましゅ……にぃぐりしゃま……」

「おはようラズリ。二度寝するか?」

「うぅん……おきましゅ……」

「んじゃあとりあえず川で顔洗ってこい」

「はぁい……」

『……川に落ちたら怖いし、我が付き添おう』

「頼んだ」


 さて、今日する予定は家を作るための資材集めだ。俺は何かを創造したりする奇跡スキルは持ち合わせていないので集める必要がある。それに、家なんか作ったことないから教えを請う必要があるのだ。

 一応あてがあるため、今日はソイツに会いに行く。


「空間転移をしたいとこだが……ま、道中の景色を楽しもう」


 ここから距離があり時間がかかるため、一瞬でそっちに移動するのもアリだが、せっかくだしラズリにこの空間を色々と見せてやりたい。

 いや、まずラズリが行きたいか行きたくないか聞かなければならないか。


「お顔を洗ってきました。改めておはようございます、ニーグリ様」

「お、おう。おはよう。まるで別人だな」


 先ほどまでの枯れた葉のような顔をしていたラズリはいなくなり、力に満ち溢れている笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

 朝に強いのか弱いのか、よくわからないな。


 とりあえずそれは一旦置いておき、早速今日することをラズリに伝えた。


「今日は家を作るために資材を取りに行ったり、家の作り方を教えてもらう」

『コケケコケコ?』

「まぁな、ちゃんとアテはあるぞ。丁度この空間にいるんだ。ちゃんと俺でもアテがあるのはびっくりしたか?」

『我はゴンザレス殿と普通に会話していることがビックリしたぞ』


 心だよ。心を通わせるんだよ、シロ。お前にはまだ早いかな、ふっ。


 ニヤリとバカにしたような笑みを浮かべてシロを煽ると、尻尾の往復ビンタを食らわせられる。

 モフモフで生意気だったの、尻尾をホールドしてった。……なぜコイツは臭くないんだ? 仄かにバニラの香りがする……ッ。


「ニーグリ様の奇跡スキルで家などは作れないのですか?」

「んぁ? 俺が司るのは〝終焉〟と〝月〟だ。専門外だから造る系の奇跡スキルを使うのは無理だぞ」


 神には等しく、司っているものがある。

 俺だと終焉と月だが、他の神は炎や水、海や山、家具や料理など……。多種多様であり、その数だけ神が存在する。

 神々は司っているものに関しての奇跡スキルが使用できるが、それ以外はあまり使用できない。精々、人類が頑張れば獲得できる生活奇跡スキルくらいだ。


 ……ではなぜ、【空間固定フリーズ】や【無限収納ストレージ】などの空間系奇跡スキルが使えるのかというのは……。……あまり、思い返したくないからやめておこう。


「成る程……。ですが、真逆のことをしていいて良いのですか?」

「ダメだな。本来なら自分の奇跡スキルを適度に行使しなきゃ、狂って暴れまわり、力を全て出し切っていずれ消滅する」

『そうか、だから一昔前までニーグリ殿はあれほどまでに……』

「そういうことだ。けど、神々が普通ならしないをする事で回避することができた。良い抜け穴だよな」


 他の神々は知らないだろうが、教える義理はない。俺は神々を殺戮した邪神だし、あまり言いふらしたいと思わないからな。

 ……しかも、本当はこれ以外にも理由があるし。


「さて、そろそろ行こうと思ってるんだが……。ラズリ、めんどくさかったらシロと留守番しててもいいぞ」

「いえ、私ももちろん行きます! どこまでもお伴しますっ!!」

「ら、ラズリ……ッ!!」

『泣いてしまわれた』

『コケ……』


 俺にはもったいないくらいのいい子だ。

 シロの毛を濡らし(涙を擦り付け)、嫌がられた後にテントを片付けて早速出発することになった。


 向かうは深い森だ。

 〝幻想郷に佇む巨神樹ユグドラシル〟に会いに行こうか。

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