第10話 ユグドラシル

 俺たちはシロに乗り、目的の場所に向かっている。

 道中では全く凶暴性のない動物や自然豊かな景色が広がっており、心地よい風が吹いている。思わずうたた寝してしまいたくなるが、今は我慢した。


 小一時間かけて走り、ついに到着した。


「すごく大きな木がありますね!」

『そうだな。しかもどこか神々しさがある』

『コケケーケ』

「ゴンザレスは自分の方が神々しいっつってんな。まぁ眩しいが」


 深い森を抜けた先にあったのは、雲を貫くほど巨大な樹木だ。幹の色は純白で、葉っぱは黄金色に輝いている。

 これは世界に一本だけしか生えていない伝説の木と呼ばれている〝幻想郷に佇む巨神樹ユグドラシル〟だ。樹液はあらゆる傷や呪いを治す効果があり、素材として使われた家具は何万年も朽ちることがなくなるとかなんとか。


《……久しいのう、我が恩人達よ》

「相変わらずデカイな、木のジジイ」

「どこからか声が聞こえてきます!?」

『あの樹木からか……』


 木の麓まで来ると、どこからか声が聞こえてきた。その正体は、この木もといユグドラシルである。

 魔物に知性があるのは知られているが、樹木にあるのはおそらくコイツだけだ。それほど力が強いというわけだな。


「隣にいる人の子はラズリだ。因みにこの子はめちゃくちゃいい子で料理も手伝ってくれて魔力量が膨大で寛大な心も持っていて魚は捌けるが卵が割れないがそこも可愛く――ペラペラペラ……――という感じの子だ!

 ……あとは犬のシロと鳥のゴンザレス、ペットだ」

「に、ニーグリ様っ! は、恥ずかしいですっ!!!」

『我らの説明が終わっておる。しかも我は犬ではなく、どちらかというと狼だ!!』

『コケコケ……』

『あ、今「やれやれ」って言ったのか。我にもわかるようになってきた』


 なぜ二匹とも呆れてるんだ? 自慢をして何が悪い。好きこそ物の上手なれだ! ……いや、ちょっと意味は違うか。

 ユグドラシルは疑問を浮かべて枝を傾けている。


《フム、恩人である人の子ではないのか。てっきり……いや、成る程。そういうことか。

 ふぉふぉふぉ、邪神だのに人の子が好きとは、変わっておるのう》

「勝手に言っとけ、邪神と人の子に助けられるユグドラシルさんよ〜?」

《グヌッ……それもそうか。まぁよい、何か頼みがあって儂に会いにきたんじゃろう? 言ってみよ》

「ああ、察しが良くて助かる。頼みってのは――」


 ――グォオオオオオオ!!!!


《魔物か? しかし、この空間でそう言った存在はいないはず……》

「……安心しろジジイ。魔物は魔物でも、ラズリが腹で飼ってる魔物だ」

「…………(プシュー)」


 ラズリはうつむき、耳を赤くしながら片手を挙げていた。

 そういば朝ごはんを食べていないし、もう直ぐ昼が近い。俺たちは食事をまともに取らなくもいいから気にしておらず、気づいてなかった。そりゃ腹も減るよな。


「とりあえずご飯にしよう。ジジイ、なんか食材に使えるものとかあるか?」

《ここらあたりは多種多様な果実が成る木をかの人の子が植えていったし、食材を残していった。だが儂は料理が作れないから、儂の従者に任せるとしよう》

「従者……? そんな奴いたか?」

『――お初にお目にかかれます、ミスター・ニーグリ』


 突如、ユグドラシルの後ろからダンディーな声が響いてきた。大地を踏みしめる音が俺たちに近づき、その姿が露わとなった。


『ワタクシの名はスティック。ミスター・ユグドラシルより知性を与えられた苗木であります。以後、お見知り置きを』

「……こりゃまた変な奴が出てきたもんだ」

「あ、頭から木……というか、首から木が生えてますよ!!?」


 真っ白なスーツを身に纏い、に金色のネクタイをキッチリと締め上げる人の形をした者。しかし、首からユグドラシルの幹や葉と同じ色の木が生えており、人間ではないことは確かだ。

 手やら足は根っこに見えるが、異形な見た目だな……。


《此奴はミスター・スティックじゃ。なんか知らんけど生まれた……》

「オメェ知らねぇのかよ。私が生産者ですって顔しとけよ」

『ミスター・ユグドラシル、認知症ですかな? 朝ごはんはさっき食べたでしょう、おじいちゃん』

《失敬だな貴様!? お主は儂の従者じゃろう!!?》


 ハッハッハといい声で笑うスティックとやら。主人で遊んでいるみたいだが、大丈夫なのだろうかコイツ。言動は紳士っぽいが……。

 コントらしきことをしていると思ったらグリンッと顔(?)をこちらに向けて近づいてくるスティック。


『こんにちは、ミス・ラズリ。良い天気ですね』

「え、は、はいっ。こんにちは……」

『ミスター・シロとミス・ゴンザレスもこんにちは。よい毛並みですね』

『なんだ此奴は……。何処から声が出ておるのだ?』

『コエェ』


 俺たちの不信感は募るばかりだが、本題に戻るらしい。


《スティック、ニーグリらに飯を作って欲しい》

『ふむ、承知しましたぞ。真心込めて作るとしましょう。僭越ながら、このスティックめが料理をお作り致しますぞ』


 怪しさ満点のやつだが、ジジイの配下なら心配はいらないはずだ。しかし、ラズリの舌に果たして合う代物を作れるかな?

 少しワクワクしている自分がいた。

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