第4話 ゴールデンチキン

 フェンリルもといシロを仲間にしたあと、ラズリはシロとたらふくじゃれあった挙句に疲れ果てて眠ってしまった。

 今はシロのモフモフな体毛で寝息を立てており、ヨダレも垂らしている。幸せそうで何よりだ。


『眠ったようだな』

「ラズリを起こしたらお前の毛を毟るからな」

『し、承知した……』


 俺もシロの体に自分の体を預ける。無駄にモフモフで心地が良く、少し癪に触る。なぜこんなにも気持ちいいし、獣のくせに臭くないのか。

 悶々とした気持ちを抱えながらも、俺は天井をボケーっと眺める。


『しかしニーグリ殿、貴殿は昔より遥かに丸くなった』

「そうか?」

『以前はこの深淵で破壊の限りを尽くしていたではないか』

「そんな前のことなんざ覚えてないね」

『なぜ前のことだと覚えているのだ?』

「…………。毛ぇ毟るか」

『ひどい』


 丸くなったというか、邪神なのに地上を荒らし回ったり大量虐殺しないだけ何千倍もマシだと思うけれどな。俺が人類滅亡に興味がなかったというのが、人類が朝日を見れていることに繋がっている。

 ま、さらに丸くなったのは深淵に来たあいつの影響だろうな。


「ふぁ……俺も寝るか」

『眠っている間の護衛はお任せを』

「襲われたら反射で殺せると思うけど……まぁ頼んだ」


 ラズリの横まで移動して、一枚の布で俺とラズリを包む。するとラズリは、きゅっと柔らかい手で俺の服を掴み、スリッと頰を擦り付けた。

 思わず笑みが溢れ、頭に手を伸ばして優しく撫でる。


 温かみを感じたのは何年振りだっただろう。

 俺も懐かしさを噛み締めながら眠りについた。



###



 ――数時間後。


 スヤスヤと眠っていた俺たちだが、突然鳴り響く轟音で眠りから覚める。


「な、なんだ!?」

「ぁ、えっと……。わたし、でしゅ……」

「えっ?」


 隣を見ると、顔を両手で隠し、耳を真っ赤に染めて湯気を放出するラズリの姿があった。

 なんのことか寝起きでわからなかったが、すぐに理解が追いついた。


『ラズリ殿は腹が減っているらしいな』

「は、はぃ……」

「にしても馬鹿でかい音だな。魔物の鳴き声かと思った」

「も、もう……!」


 何時間寝たのだろうか。俺は数年何も食べなくても全く問題ないが、人間は頻繁に食事を摂らなければ死んでしまうらしいからな。

 朝ごはん(?)にするとしよう。


 料理本(朝ごはんver)を取り出した。あいつは朝ごはんや昼ごはん、夜ご飯バージョンと分けて書いているし、お菓子バージョンのやつもある。

 数は膨大であり、当分は料理のレパートリーに困ることはないだろう。


「うーん……。簡単なやつで早くできるやつがいいよな。……食パンにベーコンと目玉焼きを……。これならすぐできそうだな」


 なぜ薄っぺらい四角形のパンを『食パン』と呼ぶのかはわからないが、その上にベーコンと目玉焼きを乗せる朝ごはんが載っていた。

 食パンは【無限収納ストレージ】にあるし、ベーコンは昨日のマウントボアのを使えばいい。あとは卵だが……探せば鳥くらいいるだろう。


「シロ、お前の鼻で鳥を探せないか?」

『うむ、できるだろう。スンスン……こっちだ』

「ラズリ、行くぞ」

「わっ」


 シロにまたがり、ラズリを抱っこして俺の前に跨がらせる。乗り心地は最高で、このまま二度寝もできそうだった。

 しかし、流石にラズリの腹の虫が限界そうなので鳥を探しに行く。


 深淵を駆け抜けること数秒、シロが足を止めた。


『コーッコッコッコッコ……コケェーッ!』

「飛べない鳥のチキンみたいだが……」

「ピカピカですね」


 地面を啄ばみながら歩くチキンはふさふさな羽毛に包まれているわけでなく、ツヤッツヤな黄金の羽毛を纏っている。

 目が眩むほど眩しいが、なぜこんなやつが深淵ここで生きていけているのだろうか。


「まぁ何はともあれ見つけられてよかった」

『ゴールデンチキンと呼ばれている鳥だ。人間界では血眼になってこやつを探しているとかなんとか……。質の良い魔力を持つ者に懐くと言われているが、ニーグリ殿ならできるのでは?』


 シロ、博識だな。俺は人間界の勉強はできないから、ラズリの勉強教育はこいつに任せようか。

 そんなことを思いながらも、ゴールデンチキンに近づいた。


『コォ? コッコッコ』

「魔力で懐くといっても……放出すれば良いのか?」


 ゴールデンチキンに手を差し伸べ、魔力を放出する。


 ――チリッ……バリバリバリバリッッ!!!!


『コケッ!?!?』

「っ!!?」

『はぁ……やると思った』


 一気に魔力を放出すると、ゴールデンチキンはフリーズし、空気がが振動し、地面や壁にヒビが入った。

 そして、パタッとゴールデンチキンは床に倒れる。


「……シロ、これは……?」

『魔力の過剰放出であるな。全く……われがラズリ殿を守っていなかったら危うく気絶するところだったぞ』

「え、す、すまん……。だいぶ抑えた方なんだけどなぁ」

「ニーグリ様は自分の力の強さを自覚した方が……」


 ラズリにもそんなことを言われてしまった。以後力は気をつけて使うことにしよう。

 顔をラズリたちからチキンのほうに戻したが、床でピクピクと痙攣している。もう死んでしまったかと思った時、バサバサと翼を羽ばたかせて甲高い声で鳴いた。


『コォケコッコォーーッッ!!!!』

「うぉっ」


 いきなり復活したかと思えば、起き上がっては跳躍し、俺の頭に乗っかってきた。そして、頭に何やら硬いものの感覚が生じる。

 そこからポロっとこぼれ落ちたのを受け止めて見てみると、真っ金金の卵だった。


「……コイツ、俺の頭で卵を産みやがった……」

「懐いたんですか?」

「らしいな」

『コッコッコ』


 卵はありえないほど重く、本物の金でも持っているかのような重さだった。いいや、チキンもチキンだ。普通のと比べてバカほど重い。


『ゴールデンチキンの卵は純金。そして羽毛にも金が含まれるているゆえに防御力が高く、深淵ここでも生きていけるらしい。

 そして、その純金の卵を割るための嘴はダイヤモンドでできていると聞くから、無限の金とダイヤの嘴が人間は欲しいらしい』

「ほんとに詳しいな。光り物には興味ないがな。……ま、懐いたんならそれでいいや」

「ニーグリ様、名前っ、名前つけましょう!」


 ゴールデンチキンに引けを取らないほどキラキラとした瞳でラズリに見つめられる。

 確かにゴールデンチキンは長いし、名付けておいて損はないだろう。


「うーんそうだなぁ……。……ゴンザレス」

『……何故その名を?』

「な、なんとなく……」

「ニーグリ様、可愛くないです」

「飼ってるうちに愛着湧くって。よろしくな、ゴンザレス」

『コケーッ!』


 当の本人……いや、本鳥は喜んでいるみたいだから結構だろう。さて、これで朝ごはんの準備は整ったし、早速料理に取り掛かるとしようか。

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