九月中旬、四葉高校では文化祭が行われた。

 四葉高校の文化祭は土日の二日間開催だ。日曜日だけはチケットを持ってさえいれば生徒以外も参加ができた。

僕たちのクラスは演劇としてロミオとジュリエットを体育館でやった。

 勿論、ジュリエットは明里でロミオは僕、ではなくクラスで目立っていた運動部の男子が演じた。ちなみに僕の仕事は照明だった。

「どう似合う?」

 本番前、舞台袖で淡いピンクのドレスを着て金髪のカツラを被った明里が得意げに僕に見せてきた。

「似合ってるよ」

 僕はあっさりと答える。明里ならなんでも似合う。そんなことわかりきっていることだった。

「まあ、知ってるけど」

 嬉しそうに明里は言って、最後の打ち合わせに行く。

 僕も照明の最終確認をする。

 明里が演じるジュリエットはとても好評だった。そんな彼女を僕は照明で追っていた。スポットライトを浴びる彼女は萎縮することはなく、いつも以上に生き生きとしていた。

 大袈裟ではなく皆が明里だけを見ていた。勿論、僕だって明里を照明の仕事をしながら見ていた。特等席で彼女を見たかったから照明の仕事を選んだのかもしれない。

 将来、明里は女優になるのではないかと本気で思った。それくらいの演技を彼女はしていた。

 文化祭が終わり、学校近くのカラオケで打ち上げをした。

付き合いの悪い僕もそれには参加した。

 誰もが明里を褒めていた。それを見て僕が褒められているわけでもないのに嬉しくなった。

 君といれば僕も少しは光を楽しめる、そんな淡い期待をしていた。

 ずっと、幼馴染が隣にいる。

 ずっと、幼馴染が隣にいてくれる。

 ずっと、幼馴染と一緒にいたい。

 そんなことをマイクを持つ彼女の横顔を見ながら思った。


 神様というのはいるならとても残酷で意地悪だと思う。

僕の一番大切なものを奪うのだから。

 

 そして、別れの冬が来た。

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