第3話 運命ができる環境は生半可なものじゃない 上

両親の前で本気で泣いた

翌日の朝


昨日言われた神父の一言を思い出した


「君は勇者に選ばれた」

「本当ならば祝福すべきなのだが、一つだけ言おう

 強く生きるんじゃぞ」


ああやって言われたのはなぜなんだろう

勇者とは祝福されるものではないのか


俺が知っている「勇者」が『“初代”勇者の英雄伝』だけだからなのかもしれない

だけど、俺は勇者に選ばれてしまった

大人の人たちがどのような「勇者」を知っていて悲しむのはわからないが

なってしまったものは変えようがない

やるしかないんだ




・・・・・




一つ息をして扉をノックする

今日は一人で教会にきている

昨日の話の続きをしてもらうためだ


扉はすぐに開いた

僕の姿を見た神父は


「もうそろそろ来る頃だと思っとった」


といって出迎えてくれた


「こんなところで話すことでもないし、奥の部屋に来なさい」


昨日とは違いろうそくに火はついておらず

今まで見てきたものと変わらない教会の中を歩きながら

神父は話し始める


「ユウキ、君の中で整理はついたかね」

「はい」

「それは結構

 親御さんとも話は済んだか」


「自分の気持ちを話し応援の言葉をもらいました」

「フォッフォッフォ

 だいぶ応えてそうじゃったが

 思っていたより芯がしっかりしとるの」


そう話していると扉の前についていた


間もなく神父さんが部屋に入っていった

それについて自分も入る


ここが神父さんの部屋か

なんだか質素だな


「そこに突っ立ってないで

 ここに座りなさい」


そういわれ席に着くと

テーブルをはさみ向かい合う位置に神父は座った


「それで今日はどうしたのかね」


さっきはもうそろそろ来る頃だったとか言ってたのに…

何があっても相手から話させるらしい


「神父さん教えてください

 なぜ昨日神父さんは祝福すべきと言いながらそうしなかったんですか?」


「それを教える前に君に問いたい

 勇者についてどのぐらい知っている」

「初代勇者の英雄伝を読んだことがあるだけです」

「そうか」


そう一言いうと考え込んでしまった

初代勇者の英雄伝しか読んだことがないことが悪かったのかな


「そうじゃのう

 時間はかかるが全部説明することにする」

「お願いします」


さながら学校の授業のような雰囲気になってきた


「まず勇者とは何か

 それは数年に一人女神によって選ばれているといわれている」

「女神ですか」

「うむ、うわさを聞くに女神は少しわがままらしい」

「わがまま・・」

「世界が何も起こらず安定していると女神が退屈をして大災害を起こしてしまう

 という言い伝えがある」

「それは少しのわがままなんでしょうか」


それだけ聞くと悪魔にしか聞こえない…

少し考え始めてしまった僕を置いて神父は話を続ける


「そんな女神によって選ばれた勇者は魔物や魔族、魔王と戦うこととなる」


そこまで聞いた僕は話を遮った


「すいません、魔物や魔族についてよくわからないのですが」

「そうか、この近くではあまり聞かんからのう

 大きな町では昔から伝わっている話なんだが、

 そのあたりにいる一般人や動物たちが突如として暴れだすことがある

 そうなってしまうと2,3日後には姿も変わり

 人々や動物たちを襲いだすようになる

 そのことを、魔の付いた者や物…魔物、別名をモンスターというんじゃ」


「かなり恐ろしい話ですね」

「まぁ最近ではそうやって変わってしまう者より

洞窟の奥とかの魔力がたまりやすい場所から生まれるものの方が多いらしいが」

「少し安心しました」


これから、戦う魔物がもともと人間だったとか、全くもって考えたくもない話だ


「そういった魔物たちは魔族より比較的町の付近に出てきやすい

 じゃから大きな町にはギルドが設置され魔物の討伐などにあたる

 町付近の魔物は3,4人のパーティーで簡単に討伐できるものが多いからのぅ

 案外魔物討伐を生業とする人は多いものじゃ」


なるほど


「少し話がずれてしまったが、魔物についてもう一つ

 ごくまれに同種のほかの個体よりも強い個体が生まれる

 イレギュラーモンスターというものじゃ

 こやつは町のギルドだけでは対応することができん場合も多い

 そこでじゃ、王都から騎士団を派遣してもらい討伐が行われる」


イレギュラーモンスターかあまり戦いたくもないな

俺だったらぼっこぼこにされてすぐやられることが目に見えている


「次に魔族じゃ

 これらはその辺から生まれてくるわけでもなく

 魔族同士で子をなして子孫を残す。まぁ人間と同じようなものじゃな」

「その、魔族は強いんですか」


「・・・・」


あれおかしなことでも言ったかな

目を丸くしちゃってるし


「…ハッハッハッハッハッ」

「!?」

「もちろん強い、先に言ったイレギュラーモンスターと比べ物にならんくらいな」


そんなになのか・・・

思わず目を丸くしてしまった


「すごく面白い顔をするもんじゃの」

「やめてください」


「先にも言ったが魔族は魔物たちと比べ物にならないくらい強い

 魔物が町などに攻めてきたことがわかると

 攻められる国がほかの国と協力しながら魔族の制圧にあたる」


話し始めたら真剣な表情に戻った


「制圧なんですか?討伐ではなく」

「そうじゃ、討伐なんぞそう簡単にできるものではない

 その強さを全ての国で認め、制圧には近隣諸国も協力するというルールが

 唯一全ての国で合意している条約になるがそれがおよそ400年前じゃ

 それが採択された後、今までに23回攻めてきたという記録があるが

 その中で討伐できたことはない

 死者が1000人を下回ったことが一度だけといえば強さがわかるかの」 


「すごいですね」

「まあ、初代勇者が30体以上の魔族を単独討伐したという記録もあるがの」


「バケモノですか」


同じ人間とは思えないな

どこかで進化したんじゃないのか


「最後に魔王じゃな」


ここまでなかなかのバケモノが勢ぞろいだけど

最終目標はどういったバケモノなのかな

やっていく自信はもうあんまりないけど


「魔王についてはわかっとらんことも多い

 わかっとることは二つだけじゃ

 一つは他の魔物、魔族と比べ物にならないくらい強いということじゃ」


「わかっていましたけど、あまり聞きたくありませんでしたね」

「そしてもう一つは初代勇者のほかに魔王を討伐した者はおらんという事じゃ」


・・・・・え?


「どういうことですか」


「どうもこうもそのままの意味じゃ

 初代勇者の後53人の勇者が選ばれたと記録にあるが

 魔王討伐に成功した者は初代勇者のほかにおらん」


・・・


「そのことが世界中で知られているからこそ

 勇者に選ばれることは名誉なことではあるが

 ほとんどの場合早死にしてしまうため祝うことはせんことがほとんどじゃ」


父さん、母さん、あなたたちが昨日あんなに泣いた理由がわかりました

これから人生ハードゲームですが頑張ろうと思います

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変革~運命に抗う者~ 楢巖累 @naraminerui

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